第41話 第三の失踪
学院での授業がまったく身に入らないマリーとハルだったが、マラコイだけは意外にも魔法知識欲が刺激されるようで、必須でない授業にも顔を出しているのだった。
そのうちの一つが入学試験でお世話になったチルトンの授業だった。『魔法による物質化の効率的なエネルギー転換』というチルトンの授業にマラコイは必ず出席していた。今のマラコイは12歳ごろの少年であり、肩まで届く金髪をセンターで割けている。少年の細身の身体は薄く筋肉が張り付きネコ科の動物のようなしなやかな動きをするのだった。腰にはアーサーから貰った銃を下げ、胸元が開いたぴったりしたTシャツにレギンス姿で歩く彼は学院の女子のショタ心をくすぐっていた。
だが残念なことにマラコイは女に興味がなかった。キリッと引き締まった眉に下まつげがフサフサの目元はイケメンだったが、女の相手はせず、ひたすら同性とばかり話し込むのだった。
チルトンは授業が終わると奥の自分の部屋へ戻っていく。チルトンは30後半の背が非常に高い男で、ひょろりとした印象の人物だった。長い髪にはパーマがあたり後ろで一つにくくられている。丸いメガネを掛け、するりとした鼻筋がよく見れば美男子だった。マラコイはチルトンを追って部屋に入る。
最初はマラコイがピンクの【発情】魔法の相談をするために部屋を訪れた。その魔法を見たことがなかったチルトンが自分に試し打ちをして欲しいと懇願し、マラコイは喜んでチルトンを【発情】させ、二人はひとつになったのだった。それから二人は毎日一緒に過ごしており、マラコイの昼間の過ごし方は授業に行くかチルトンといるか、というぐらいずぶずぶの関係になっていた。
その日もマラコイは部屋に入るとチルトンと自分に【発情】を打ち、男の発情についての研究を重ねる。ひとしきり研究し、部屋のソファでマラコイはチルトンの頭を撫でていた。
「なあマー君」
「なんだよチルチル」
「マリー様ってどんな魔法が使えるか知ってるの?」
「あいつは魔法に関しては出来ないことはないんじゃないかな、魔力量も底知らずだしな」
「一回さ、得意な魔法を見せてもらえないかな。マリー様の。マー君からお願いしてみてくれない?」
「お安いご用さ。でもあいつバカだから限度を知らないからそこだけは気をつけてなチルチル。巻き込まれて死んじゃ駄目だぞ」
そう言いながら二人は熱く見つめ合い、二人の世界に入っていく。
マラコイが宿舎に戻ったのは暗くなってからで、マリーに晩御飯を食べながらチルトンのお願いを伝えると二つ返事で快諾してくれた。マリーは暇なのだ。
その夜、マリーは王女クラリスとお付きのミーシャのセーラー服をちょいちょいっと創り出し、部屋に届けるが二人とも留守にしていた。仕方なく部屋のドアノブにセーラー服が入った袋をぶら下げておく。喜んでもらえるといいな、と思いながらマリーは軽くスキップをしながら部屋に戻りベッドに入った。ちなみにハルはハリス博士との遊びを再会させており、夜はよく外出している。ハリス博士は学生の失踪事件のせいで弱ったメンタルをハルで癒やし、ハルは子供の薄い身体でハリス博士を抱きしめてあげるのだった。
次の日の朝、マリーは部屋に来客を迎えていた。クラリスとミーシャだった。
「マリー様、昨日はセーラー服を届けていただいてありがとうございました」
「いえいえ、で、着心地はどうですか?今日は着て来て下さらなかったのですね」
わざとらしくしょんぼりした顔をマリーはする。
「うっ、ま、また今度ね、着させていただきますわ。」
「約束ですよお、クラリス様」
「き、今日は御礼をお届けに来たのです。この前お伺いした時に部屋が殺風景でしたから」
ミーシャが部屋の外で待つ男たちに合図をして、廊下にあったものを運び入れさせる。
「こちら王宮でも使っているソファセットなの。マリー様もくつろいで下さると嬉しいですわ」
「ふわぁぁあああ、すっごいですう!ありがとうございますう!」
ソファ全体に花柄の刺繍が入り、脚の木材がうねるように輝いている。マリーが見ても高級品だとわかるソファだった。一人がけのソファが2つ。大人が三人座ってもゆとりがあるソファが一つだった。相当に思いようで男たちが懸命に持ち上げて運んでいる。
「設置が終わるまで私の部屋でお茶でもいかがですかマリー様」
ソファが運び込まれる様子をきらきらした瞳で見つめていたマリー。そう、マリーは贈り物に弱かった。マリーにとってクラリスは大親友にまで一気に格上げされたのだった。
「行くわクラリス。喜んで。」
さらりと呼び捨てにするとクラリスの腕に自分の腕を絡ませる。いきなり距離感が近くなったことにクラリスは驚くが、そんな素振りは見せずマリーに調子を合わせて腕を組んでいる。
「じゃあ、ミーシャ後はよろしくね。終わったら私の部屋まで報告して」
「おまかせくださいクラリス様。」
ミーシャはそういうと男たちに指示を出し、部屋のレイアウトを整えていく。マリーはクラリスの部屋で紅茶を飲み、クラリスにセーラー服を着せた。ハルの指導によりスカートの丈はより短くなり、かがむとパンツが見えてしまう激ミニスタイルになっていた。マリーは面白がって床にわざと物を落としてはクラリスに拾ってもらう遊びをし、最初はイヤイヤ付き合っていたクラリスも徐々に楽しくなり、二人で笑い転げながらマリーにパンチラを見せつけていた。
その頃、ミーシャはソファの設置が終わり、男たちを帰すと、マリーの部屋を出ずに鍵を掛けた。ソファを裏返し中に隠されていた何かを引きずり出すと、マリーのベッドの下の空洞に入れる。緊張したのか荒い息を吐きながら、ベッドを元に戻すと身だしなみを整えてからマリーの部屋から出ていった。
その頃、マラコイはチルトンの授業に出席していた。いや、まだ授業は始まっておらず、開始時刻を過ぎてもチルトンが奥の部屋から出てこなかった。前列に座る生徒がひそひそと相談しあってから一人の生徒が部屋をノックする。応答はなく、ドアノブを回すとドアが開いた。中を覗いた生徒は何を見たのか、腰が砕けるように座り込むと、生徒達を手で招く。恐怖が張り付いた顔の生徒を不審がりながら、幾人かの生徒がチルトンの部屋を覗き込み、悲鳴を上げた。
マラコイも急いでチルトンの部屋へ走った。二人が睦み合ったその部屋は血で塗れていて、床にはチルトンのものらしき切り落とされた手と脚が4本落ちていた。マラコイは部屋の奥まで入り、チルトンの身体を探すが部屋の中にはなかった。血はすでに乾いており、出血がかなり前の時間だったことしか分からなかった。
(噂の行方不明事件でも切断された脚が落ちていたらしいしチルチルを狙ったのもそいつの仕業か?マリーなら何か掴めるかもしれない。とりあえずマリーに相談しよう)
現場にはすでに警察が到着し、生徒の立ち入りを制限しだしている。マラコイもチルトンの部屋から出ると教室の荷物をまとめ宿舎に戻ろうとするが、教室の入口で警察官に止められた。発見者として話を聞かせてくれという警官とともに別室へ移動する。マラコイが発見のいきさつを証言している間に、チルトンの部屋では日記が発見され、恋人マラコイの存在が明らかとなった。チルトンが最後にあったのがマラコイだったことが発覚し、マラコイはそのまま重要参考人として警察に勾留されることとなったのである。
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