第25話 部屋
濃厚なキッスをかます二人を膜一枚隔てて見つめる俺とミクリ。
バラバの手はおいちゃんの尻をまさぐり、乳をもんでいる。
これあれだ、マジックミラーってやつだわ。
「いいなぁ」
ミクリがそう呟くと俯きながら俺を見てくる。
ボブカットの髪が斜めに傾き、隙間から潤んだ瞳が見える。
そしてセーラー服のスカートをたくし上げ股間に入れた手が高速で動いている。くちゅくちゅと音がすごい。
じっと、見つめると盛り上がってきたようで膝をついてハァハァ喘いだ挙げ句に数回身体を震えさせた。
と、思ったらまたすぐにくっちゅくっちゅと手を動かしている。
お前は何回いったら終わるんや。
はあ。ため息が出る。
なあ、ミクリはダンジョンから出れるんか?と手を動かすのに忙しい彼女に聞く。
「ハアハァハァ、で、でれちゃいましゅううう」
股間から何かが噴き出したがもう放置する事にした。
なんだろうこいつは。全力で性欲を向けられると人間って引いてしまうんだなあ、と初めて知った。
はぁ。ため息が出る。
するっとダンジョンから出る。
外でもおいちゃんとバラバが盛り上がっていて、俺が出ると凄い速さでぴょーんと別方向に離れた。
おいちゃんは慌てて武器を構えている。
「アーサー?生きとったん。わいアーサー死んだと思ったぞ」
「アーサー様!よ、よくぞご無事で!」
バラバの野郎め、俺のおいちゃんを取りやがったな。
でも俺はおいちゃんに嫌われているんだよなあ。
なんか凹むわあ。
二人に話を聞くと、俺がダンジョンの底に落ちて、すでに一年の時が経っていた。まあ二人がひっついたのも納得である。
森の周りのダンジョンはまだ残っていて甲虫人との戦いも続いているようだ。
アーサー様の火魔法がないと一匹倒すのにも時間がかかるんですよ、とバラバは言う。嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
ただ、バラバともおいちゃんとも何となく距離を感じる。
ミクリがダンジョンから出てきて隣に立つ。
セーラー服のミクリを見ておいちゃんは整った顔の眉をしかめた。
「アーサーなんだこいつは?モンスターでも人でもない変なやつだぞ」
ミクリはすっきりしたのだろう、澄ました顔で立っている。おいちゃんに返事もしない。
おい、自己紹介しろ、とミクリを肘でつつく。
「ミクリです」
それだけ言うと、にこりともせずそっぽを向いている。
えええ?お前そんなキャラだっけ?
すげーつんつんしてんだけど?
さっきまで、だらしない顔で股間を摩擦していたとは到底思えない凛とした顔が美しい。
村へ行きましょうというバラバに案内されて森のそばの仮で作った村に行く。
俺のダンジョンから歩いて20分ぐらいである。
というか俺のダンジョンが出来たのは、崩壊したダンジョンとほぼ同じ場所であった。あの美しい森の一部にもダンジョンの一部が食い込んでいるようだった。
村はまだ貧しさがバリバリで、作って一年目で仕方ないとはいえ服もボロくなっていた。
食事は困っていないようで飢えてはいないが文化的な生活をしているとは言えない。
久しぶりに会う村人たちは愛想よく挨拶をしてくれたが、どこかよそよそしい空気だったのだ。
「アーサー嫌われててかわいそう」
ミクリが哀れみの目で俺を見てくる。
いやいや、そんな村人に嫌われることなんてしていない。おいちゃんにセクハラし過ぎたぐらいである。おいちゃんを見るとさっと目を逸らされた。バラバも同じくである。
くそ、あの二人なんか村人に言ってやがるな。
村は特産物もなく貧しかったが、一年で驚くほど子供が生まれていた。人間と淫魔のハーフたちは一様に整った顔で、耳が少し尖っている。
まだようやく立てるようになったぐらいの子供たちは尖った耳をクリクリと動かして愛らしかった。
バラバからはダンジョン攻略の依頼を受ける。
そういえばおいちゃんと攻略したダンジョンはボスを殺すのはおいちゃんがしていたので、俺に恩恵がなかった。
まあやることも無いので引き受ける。
よそよそしい奴らだが人との繋がりは大切だ。
売れる恩は売っておいたほうがいい。
詳しくはまた今度聞く事にして今日は自分の家に帰ることにした。
そう、ガラス張りの豪華なビルが我が家である。
泊まっていきますかと案内された住居は、板張りの床に葉っぱを重ねただけの貧相な家だったのだ。
まだ自分の家もちゃんと見ていないから、と濁したお断り文句を言ってミクリと二人でダンジョンに帰る。
「あんなやつら相手にしなくていいんじゃないの?わたしがいればいいんじゃない?」
ミクリはそう言いながらわざとらしく前かがみになる。
少し膨らんだ胸が見える。
あざとい女だけど嫌いじゃないぞ。
さて、外壁は総ガラス張りの直径一キロあるドーナッツ型建物である。中を確認しようにも広すぎて見れない。
時折、ゴーレムたちが掃除をしているところに出くわしたりするが平和である。
俺のイメージで作ったので、エレベーターあちこちに完備である。10階建ての各フロア移動もラクラクである。
いや、部屋が大量にありすぎて困る。
「デラックスルームみたいな部屋ある?」
ミクリに聞くと無いらしい。全部同じだというので、最上階の部屋を百戸ほど繋げて俺の家にする事にした。
十畳ほどの狭めのベッドルームにはふかふかのベッドをミクリに注文し、風呂場に洗面所にトイレ、そしてキッチンである。
残りは広々としたリビングルームである。まああちこちにソファを置くぐらいしかやる事はないのだが。
上下水道が何故か機能していて、どこから来てどこに流れていくのかミクリに聞いても、知らんと言っていた。
なんか知らんがダンジョン最高である。
出来上がった俺の部屋を見てミクリも気に入ったらしく、俺の隣の部屋を同じ形に改造している。
温水が溜まった湯船から湯気がもうもうと上がる。
久しぶりに入った風呂は最高だった。
そしてフカフカのベッドに飛び込む。極楽だった。
一瞬で眠りに落ち、目が覚めたら朝風呂をしてからリビングでごろごろする。最高である。至福だった。
ダンジョン攻略の打ち合わせをしにバラバの家に行かないといけないが、部屋から出たくない。
ダラダラと部屋から出ないまま数日が過ぎる。
ミクリはドーナツ型の中央にある庭の一部を畑と牧場にしたようである。
ちょっとこっちきてイメージしろ、というのでついて行っていろんな野菜とか牛と羊と豚と鶏をイメージした。農業と畜産をするつもりである。
ついでに畜産と農業用のゴーレムを創り出しておく。
ま、あとは適当に頼むわ、とミクリに丸投げする。
ミクリは畑や牧場が気に入ったようで、ゴーレムたちと一緒に汗をかきながら土を運んだり柵を作ったりしている。
笑顔で汗を流す姿を見て俺はちょっとトキメいた。そう、こういうの、こういうのがいいのである。
俺はその夜、ミクリの部屋に行き彼女を抱いた。
それはもう熱い夜だった。
俺は昼間眠り、夜はひたすらミクリと愛し合っている。
日中はミクリは何か細々と仕事があるようで忙しくしているのだ。いつ寝てるのか疑問だが、そんなに寝る必要がないみたいなことを彼女は言う。
そんな穏やかな毎日を過ごすうちに、バラバやおいちゃんとの約束をすっかり忘れていた。
ある日のことだった。空高く登る太陽とは逆に、遮光カーテンで日光を遮断した真っ暗な部屋で寝る俺のもとにミクリが来た。
昼間起こされるのは珍しく、どうしたのかと聞くと、来客だという。
人と淫魔のハーフの子供たちが来ているらしい。
「血塗れだったから、可哀想でとりあえずダンジョン内に入れたよ」そんな優しい面もあるのだなあとミクリを見直した。
むしろ身体の関係を持ってから俺は彼女のことを好きになっていく。
最初の性欲モンスターだった頃と違い最近は発情しても気にならない。というより逆に乗っていくスタイルに切り替えた。お互いにハッピーであった。
ダンジョン内に入れたという子供たちに会いに行く。
境界線の膜の内側に50人ぐらいの血だらけの子供たちが倒れている。
身体の一部が焼け焦げているもの、手足が欠損しているもの、目玉が飛び出しているもの。思った以上の重症ばかりである。
ミクリの口調からはこんな大怪我だと思わなかった。
くそ、やはりあいつも非常識だな。
中に入れた子どもたちの数人はすでに事切れている。
そして、膜の外にも十数人の子供が倒れていた。
ミクリがぼそっと外の子はもう死んでいたから、と言う。
見るとバラバの村から黒煙が上がっている。
死にそうな子どもたちに【治癒】を当てる。
応急処置をし、手足の欠損などは時間をかけて治してやる。
治った子どもたちはみんな泣いている。
沢山の大人が殺されたらしい。
とある子供が言う。
「
「アーサーという魔王が魔物の国を作ろうとしているんだろうって」
さめざめと泣く子供をみて茫然とした。
誰だ!誰だ!そんなデマを流したやつは誰だ。
おいちゃんは!?バラバは?他の村人はどうなった?
子供たちは全員を俺の部屋に入れてやる。
ミクリに食事の世話を頼んだ。
そうして俺はバラバの村に向かったのだった。
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