40. 究極の意思決定術!? 『デルファイ法』

 『デルファイ法』とは、1950年代にアメリカのランドコーポレーションという研究所で、発祥、開発された集団内での意思決定法です。

 集団内の意思決定法というと、まず皆さんの念頭に浮かぶのは『会議』や『話し合い』でしょうか?

 小学校でも、企業でも、最近ではZoomなどを使った遠隔地からのリモート会議もあり、まさにスタンダード中のスタンダード。ですが、そんなキングスタンダードな『会議』というシステムにも欠点があります。


 ・見解の善し悪しではなく、権力者の意見が採用されやすい。

 ・見解の善し悪しではなく、実績を立てた人の意見ばかりが採用されやすい。

 ・見解の妥当さではなく、弁論が巧みな人ばかりが意見が採用されやすい。

 ・特定の時間に参加者が揃って予定を空けておかなければならない。(最近では、リモート会議の普及で軽減されてきたが、それでも)


 などなど。

 これらの悩みどころを是正するために開発されたのが、『デルファイ法』なのです。(※1)


 さて、肝心の気になる『デルファイ法』の正体ですが。

 一言でまとめると、【繰り返しアンケートを行う】手法となります。

 特に、未来予測に向いるといわれており、


 ・会議の参加者が有識者(議題についての見識がある)である

 ・数字を予想する


 の条件が揃うと特に、効力を発揮します。

 例えば、↓こんな議題があったとして。


Q.弊社から来月にリリースされる最新ゲーム『ニョニョの奇妙なダンジョン』は、発売日から一か月後の時点でどのくらい売れているでしょうか?


 まずは、参加者質問にこの問題を提示し、締め切りまでに書面なり、Eメールなりで返信してもらいます。

 全員から返信されたら匿名で集計し、その結果を参加者全員に公開。

 たとえば、参加者が12人だとしたら、こんな感じになるでしょうか。


---------------------

5万本

7万本

9万本

9万本

10万本

14万本

15万本

20万本

22万本

22万本

25万本

60万本

---------------------


 集計の結果をグラフ化して見やすくするのもいいですし、【四分位数】で示すと良い結果が得られると『デルファイ法』では推奨されています。

 【四分位数】とは、数を小さな順にならべて、


 ・下から1/4の順番の数値

 ・下から2/4=真ん中の順番の数値

 ・下から3/4の順番の数値


 となる値をピックアップすることです。

 例題だと、以下のようになりますね。


---------------------

5万本

7万本

9万本

     ←1/4の順番(第一四分位数):9万本

9万本

10万本

14万本

     ←ちょうど中央の順番(第二四分位数・中央値):14.5万本

15万本

20万本

22万本

     ←3/4の順番(第三四分位数):22万本

22万本

25万本

60万本

---------------------


 ・下から1/4の順番の数値:9万本

 ・下から2/4=真ん中の順番の数値:14.5万本

 ・下から3/4の順番の数値:22万本


 こうして掲示された【四分位数】も併せて見ることで参加者は、自分の予想が多数派なのか、それとも意見の中央からかけ離れていたのか。

 偏っていたのであれば、それを認知。


 それを受けて、【こんなつもりではなかった】と、数値を修正してもいいですし。

 【やっぱり、私の考えは正しい】と、その根拠を説明するとともに、数値を変えずにそのまま押し通しても良い。


 そうやって、1回目のアンケートの結果を見ながら、参加者は締め切りまでに再び、考えを提出。

 これが2回目のアンケートとなり、また結果を匿名で集計――それを全体に提示して――という、サイクルを繰り返すことで、参加者全体の意見を集約していくことができる。という寸法です。


 以上が、『デルファイ法』の手順を簡単にまとめたものですが、従来の『会議』と比して、幾つかメリットがあります。


 ・アンケートの結果は匿名で公開されるので、【発言力が強い人】【上司】の意見ばかりが取り入られる恐れが少ない。

 ・文章での回答なので、トークが苦手な人でもOK。文章を書くのが苦手であれば、締め切りまでに時間をかけてしたためれば良い。

 ・締め切りさえ守れば、いつでも回答できる。

 ・よって、参加者が一会に集まる必要がない。


 といった感じ。

 手間がかかるので集約に時間がかかるという欠点もありますが、参加者全員の意見が等しい重さで扱われる特異なメリットがあるのがわかりますね。


 さて、この『デルファイ法』を実際に行ってみると。

 意外とアンケートを繰り返す回数は少なくてよく、おおむね3回程度行うと、特定の意見に集約され、そこから動かなくなるそうです。


 そしてその時、


・1つの意見(数値)を中心にまとまる

・2つの対立する意見(数値)にまとまる


 という2つの場合があるとか。

 【そこから動かなくなる】わけですから、もうどうしようもなく、『デルファイ法』の役割はここまで。

 あとは意思決定権をもつ責任者に結果を報告し、決断を下してもらうといったことになるでしょうか。


 なお、ここでポイントとなるのは、【弁論の上手さ】【発言力】といったパワーバランスをいくら排除しても、意見が1つに集約されるとは限らない点だと私は考えます。


 以前、【社員の全員が納得するまで、会議を続ける】のを社風に掲げているゲーム会社を見たことがあります。一見、素晴らしい理念だと思えますが、『デルファイ法』を知った後だと、アレ? ってなるかも。


 【弁論の上手さ】【発言力】などのパワーバランスを排除しても、意見が2つに割れて対立することがある。

   ↓

 すなわち、常に意見が一つにまとまるということは、そこに確実な【弁論の上手さ】【発言力】といった、意見の正しさ以外の要素が働いている。


 おそらくは、腑には落ちないが折れている人や、同調圧力に押されて意見を取り下げている人々がいるというのは、明白でしょう。


 まあ、それだけなら良いのですが。

 【会議で反対意見が出なくなったのだから、みんな賛成ってことだよね】

 【だからみんな納得してるよね】【不満もないはずだよね】

 といった論法を押しつけてしまうと、心ならずも折れた人には不満がたまるであろうことは、火を見るより明らかでしょう。


 『デルファイ法』の優れた手法も見どころですが。

 あらゆるパワー(権力)を排しても、意見が対立するときは対立する。むしろそれも正常である。

 という事実も、見過ごせないポイントでしょう。



(※1) デルファイ法

 古代ギリシアにあった地名『デルポイ』が語源。

 この地の神殿で下されたご神託が、ギリシアの政治に影響を与えていたとされる。

 ありがたい神のお告げみたいにビシッと、いい考えをまとめたいよね。

 という想いで、この名前がついたのかもしれないし、そうではないのかもしれない。

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