31. 距離と時間の錯覚


 距離と時間。尺度としては異なるものです。

 しかし、人間は両者を、本能的に関連づけて考えてしまうことがわかっています。

 たとえば、以下のような実験。


 点  点   点  点     点

 A  B   C  D     E


 ↑上のようにA~Eの5つのポイントがあり、点灯が可能なランプがあるとします。そして、A→(待ち時間)→B→(待ち時間)→C→(待ち時間)→D→(待ち時間)→Eというように、AからEまで順番に1つずつランプを点灯させます。

 ただし、先のランプが点灯し、次のランプが点灯するまで、常に同じ時間=仮に0.5秒としますが、待ち時間が生じるとします。


 この時、この【待ち時間】を人間はどう感じるでしょうか?


 おおよその方は、直観でわかると思いますが。

 点A→点B、点C→点Dは、同じように感じます。

 しかし、点B→点Cは、それらより待ち時間が長いように錯覚するのだそうです。

 さらに、点D→点Eは、最も待ち時間が長いと感じます。


 いうまでもなく、点B→点C、点D→点Eは、他のポイントより、距離が離れています。すると距離に応じて、待ち時間も長くなったと誤認してしまう。


 人間というのは無意識のうちに、距離の長さと、時間の長さが比例するものだと予測して、物事を観察しているというわけです。

 心理学では、これを『時空相待』あるいは『カッパ効果』といいます。(※1)


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 この『カッパ効果』をコンテンツ制作に活かせるとしたら、どんなケースが考えられるでしょうか? 私が、まず時間と距離から連想するのは、ゲーム中のローディングの待ち時間です。


 必要なデータを呼び出している際に、細長いゲージが表示され、それがいっぱいになったゲームが始まる――というのは、もはや定番の仕組みですが。

 いくら、ロードに時間がかかるからといって、過剰に長すぎるゲージを表示したら、体感時間まで余計に長くなってしまいます。

 ユーザーにとって、『待たされる』ことはストレスに直結するわけですから、得策ではない。


 では、ただゲージを短くしたら良いのでしょうか?

 いいえ、それも支障がありそう。

 『17. ユーザー満足度を決める4つの法則』で触れましたが、

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888998169/episodes/1177354054894532607


 人の満足度というのは、最初に期待したレベルを上回るか、下回るかで決定されます。

 ローディング中に短いゲージの枠を表示すれば、まず『すぐにデータの読み込みが終わりそうだな』と予想するでしょう。が、それより長大な待ち時間が生じるのであれば、期待を裏切られた、不誠実だと感じる――大きな不満へと転じます。

 これを、『期待値バイアス』と呼びます。


・データの量を示すゲージが長いと、体感時間まで長くなってしまう

・しかし、ゲージを過剰に短くすると、ユーザーの期待を裏切り不満につながる

            ↓

・長すぎるのはいいけど、短すぎてもダメ。

            ↓

・ユーザーが予測する時間から逆算して、ちょっとだけ短いのが良い。


 という、仮説が成り立ちます。

 あるいは、本当に待ち時間の長いローディングの際だけ、ゲージを表示させて、それ以外の短時間で終わるロードでは画面にゲージそのものを表示しない。

 『何らかのキャラとかが動く』簡易なアニメーションで代用する。

 という、手も考えられます。


 もっとも、↑上記の手法は、コンシューマーゲームやソーシャルゲームを始め、幅広く採用されているわけで。心理学の理屈にもかなった、正当な進化といえるでしょう。


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 もう1点、ゲームでの活かしどころを考えるならば、体力ゲージの長さも候補に挙がりそうです。

 残りの体力をゲージで表す。これも定番の仕組みですが、


●体力ゲージが短いと

・すぐにゼロになる印象。

・よって、難易度が高い。あるいはゲームのプレイ時間を短く感じる。

・高難易度のコアなゲーム、短期間でハラハラさせたいゲームに向いている。


●体力ゲージが長いと

・なかなかゼロにならない印象。

・よって、難易度が低い。あるいはゲームのプレイ時間を長く感じる。

・初心者でも遊べるゲーム。余裕をもって自由に何でもできるゲームに向いている。

・場合によっては障害が少なく、退屈に感じるかも。


 といった具合に、体力ゲージの長さで、プレイヤーの印象を変えることもできそうです。

 私なぞは、高難易度の著名なゲームというと、『ロックマン』シリーズを思い出すのですが。あの作品も画面全体のサイズに対して、ゲージがとても小さく短い。


 以上、見た目の長さと、体感時間は比例する。と表現すると当たり前のようです。

が、こういう風に言語化しておくと、いざという必要なときに、パッとアイデアとして脳内から引用することができます。

 覚えておいて損はない知識かもしれません。



(※1) この認識の誤りは【視覚】だけでなく、立て続け違う場所を触れられた場合の【触覚】でも生じるとされています。

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