透明な金額

エリー.ファー

透明な金額

 この国でお金が出回って三周年目となった。

 やはり、文化というものはお金が回ってこそである。

 私は少なくともそう思う。

 この国をおさめている王としてここで発展を止めてはならない。

 より多くの金をこの国中で回そうでははないか、それが文明というものだ。

 しかし。

 残念なことに金を増やすだけならただ工場を回せばいいが、経済とは繋がってこそ生まれるものである。

 外貨の獲得をしなければならない。ならば、どうするか、考えを巡らせてただひた

すら戦うことに自分の心を入れ替えていく。他の国から奪わなければ奪うしかない。経済とはそういうものだ。そうやって周り、そうやってでしか誰も幸せにはなれない。

 最高の気分ではないが、自分が作り出した最高の国は、私の中の最低さで保っているようなものだった。

 一年目の時は物々交換だけで回っていた。二年目の時は他国の介在を許すことによって国が壊滅しかけた。

 今はどうだろう。

 他国と同等に渡り合っている。

 こうなればいつしか、小さな国を吸収するような日も近づくのではないだろうか。

 そう、思う。

 戦争を起こしてみようか、と思う。

 しかし。

 そんなことをして目を付けられてもしょうがない。今は、自国にあるもので経済的な戦争に打ち勝たねばならない。それが正解の道のりなのだ。

「王様はなんで、いつもそんなところにいるの。」

 私は椅子に座りながらそんなことを話す農民の子供に目を向ける。

 私にもこのような時代があったのだと思うと、急に懐かしくなり近づいていく。

「城にいないことを言っているのかい。」

「うん。」

「私はできるかぎり、国中のことを把握しておきたんだよ。いつも城の中にいては所詮、分かることも資料上にある文字の羅列だけと限られてしまう。それではそこには何の意味もないというものだ。」

「だから、殺されかけるんじゃないですか。」

 子供は銃を持っていた。

 銃口は完全に私の心臓をとらえている。

「死ぬのかい、僕は。」

「そうじゃないですか。」

「そうか。」

「三年もった国には、正直、他の国からしたら邪魔でしかありません。消えて欲しいんです。」

「分からないでもない、そういう国として育てた。」

「貴方のような優秀な指導者さえいなければ国には滅びます。」

「それは違う。」

「何がですか。」

「この国は、確かに私が指導者だ。けれど、この国で働き、生きている国民がこの国を形づくっている。そして、私もこの国の国民の一部でしかない。」

「何がいいたいのですか。」

「国というのはな。指導者が優秀である必要はない。国民が優秀であればいいのだ。今になって、その国民の一人でしかない私が死んだところで何の意味もない。」

「そんなことはありません。」

「そういうものだ。」

「自分を低く評価しすぎだと思います。」

「私は自分の作った国に住んでくれた国民を高く評価しているのだよ。」

 その瞬間引き金が動く。

 銃口から旗が出る。

 王様、お誕生日おめでとう。

 旗に、そう文字が書かれている。

 少年が抱き着いてきた。

「おめでとうございます。」

「ありがとう。」

 その次の年、私の国は諸外国との余計な経済的争いを避ける様になった。

 結果として自国の文化や、科学技術等遅れていくのは非常に申し訳がないが。

 見ず知らずの子供に誕生日を祝ってもらえる王であり続けるのが夢なのだから。

 これはもう、致し方あるまい。

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