第3話
「何の用だ?」
できる限りめんどくさそうな態度で言ってやった。
「別に用なんてねえよ。あっちからそのチビが見えたから挨拶に来てやっただけじゃねえか」
ちひろは振り返ることができず、背中を丸めて下を向き目を瞑っていた。
「用が無いなら向こうへ行けよ」
「うるせえ。何でお前にごちゃごちゃ言われなきゃいけねえんだよ。だいたい神聖な神殿にこんな獣を入れんな。汚ねえんだよ、とっととつまみ出せ」
クラエスが言うと他の二人がゲラゲラと下品に笑う。
「おいチビ!お前に言ってんだよ。神殿からも町からも出てってくれよ。なあ頼むわ」
ちひろは固まったまま震えている。
「チッ、くそチビが! 無視すんな!」
そう言ってクラエスはちひろのイスの足を蹴った。ちひろは一瞬ビクンと反応したが、また固まった。
こいつは許さん。絶対殺す。
そう思いながらゆっくり立ち上がると、クラエスたち三人は少し下がってから身構えた。このクソ野郎だけには絶対一撃入れる。その後はどうなろうが関係ない。
右のダルコが少し間合いを詰めてきた。こいつに注意を引き付けておいてから左のロンが飛びかかってくる算段だろう。次にダルコが動いたら、ロンにカウンターで攻撃して怯ませてから一気にクラエスのところまで行ってやる。
右のダルコがジリジリとにじり寄ってくる。攻撃のスイッチが入るまであと半歩ほどだろうか。このカウンターはタイミングが重要だ。
ダルコの足がじわじわと近づき想定したラインを踏み越えたと同時に飛びかかってきた。思った通り少し遅れてロンが動き出そうとする。
俺はダルコの攻撃をかわし、ロンの顔面にカウンターのパンチを入れる。
うぐぅぅっ!
こんな形で反撃されるなんて全く考えていなかったのだろう。ロンは後ろに転げまわった後、うずくまってしまった。
透かさずクラエスのほうを向いて走り出す。あまりの展開にクラエスの顔は引きつり完全に対応ができなくなっている。
「何をやっとるかーーー!」
突如、怒気を孕んだ声が響き渡り、俺を含めた全員が動きを止める。
「オ、オーガスタス隊長!」
クラエスが怯えと安堵が入り混じった表情で叫ぶ。
年齢は20代後半くらいだろうか。鎧を身に付け全身から抑えきれない覇気を流出させている。
「お前たち、ここがどこだかわかっているのか?」
「隊長!あいつがいきなり殴りかかってきたんです。ロンは不意を突かれて……あのままだと俺もやられるところでした」
……こいつ!
「なぜそんなことをした?」
オーガスタス隊長は鋭い目を俺に向けて言った。
「いや俺は……」
言いかけて飲み込んでしまった。何を言おうが神殿内で暴力行為を行ったことは事実でしかない。第三者から見ればあいつらの挑発に乗っただけだとも言える。
「俺たちの顔が気に入らないとかなんとか言ってケンカを売ってきたんです」
ダルコがさらに追い打ちをかける。
それまで怖くて動けなかったちひろが勇気を出して立ち上がり、こちらに歩いてきた。
「隊長さん、違うんです。ほんとは……」
ちひろに向けてクラエスが憎しみの目で睨み付けると言葉が出なくなってしまった。
「私の弟はそんなことしないわよん」
隊長の背後から聞き覚えのある間の抜けた声が聞こえてきた。
「マリーか。……弟? お前の弟?」
オーガスタス隊長は驚きの表情で俺と姉ちゃんの顔を二回見比べた。
「クラエス、久しぶりね。あんたたちまだつるんでんの?」
「何だ、お前たちは知り合いなのか」
「……ちょっとね」
そう言って姉ちゃんはニヤニヤしながらクラエスたちを凝視する。
下を向いて黙ったクラエスたちを見て察したのか、オーガスタス隊長は三人に付いてくるよう命じた。
「もんだいじぃー」
姉ちゃんは嬉しそうに俺を見る。腹立つ顔だ。
「ちーちゃんは大丈夫? 何かされた?」
「ううん、大丈夫。クロードが守ってくれたから。でも、わたしは……もっと強くならないと」
そう言ってちひろは決意の表情を浮かべてうつむいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます