5-3.

 宝探しのルールは、シンプルなものだった。

 まずは四人以上でチームを組む。

そして、乗船時に渡された封筒の中の問題を解き、指定された場所へ向かう。

そこでまた問題を探して解き、というのを繰り返して、船内に隠された宝を見つけた最初の一組に、賞品が与えられる。制限時間は明日、船が港に戻るまで。

「皆様、お互いに協力し合って、宝物をお探しください。それでは、カウントダウンの後にスタートです。三、二、一、スタート!」

同時に午後一時を告げるホールの柱時計が鳴り響き、ホール内がにわかにざわつき始めた。

 春日原がぼそりと言う。

「それで、頭数が必要だったわけですか」

「うん、あまり畏まった相手とは組みたくないでしょ? 来てくれて、本当に助かった」

青山はひそひそと答えた。大規模なパーティーなら、数人キャンセルが出たところで大した支障はあるまいと思っていた謎は、今解けた。

「まだ枠があるなら、私も入れてくれない?」

花枝嬢も、ひそひそ話に加わった。遠くには彼女をチームに誘いたそうな、同年代か少し年上の男性たち、またはナイスミドルたちが様子を伺っていた。

「お姉様がいてくださるなら、心強いです」

しかし主催の愛娘の前で、彼女が姉と慕う女性をナンパするわけにもいかない。渋々諦めたようだった。

「ありがとう。まあ、このメンバーなら、お宝は私たちのものになったも同然だよ」

飄々とした淑女は、こちらを見て悪そうに笑った。確かに、春日原なら一人でもお宝を探し当てそうだ。

「はい、やるからには勝ちに行きたいですから」

青山も乗り気だ。

「そういえば青山先生、歌ヶ江さんはこのイベントにぴったりだって言ってましたね。勝算があるんですか?」

「うん、歌ヶ江は探し物が得意だから」

「……あれはまぐれだよ……」

青山とクラスメイトだったほんの一学期の間の、終わりの頃に起きた事件。今まですっかり忘れていたくらいの些細な出来事だったが、当事者だった青山からすれば、それなりに重大だったのかもしれない。

「詳しく聞きたいところだけど、今は宝探しが先かな。道すがらにでも教えて」

花枝嬢に言われてホール内を見ると、そもそも宝探しに興味がない客以外は、徐々に動き出していた。チームメイトを探している人間、テーブルに問題を広げて首を捻っているチームはもちろん、早速ホールから出て行くチームもいた。

「そうですね。とりあえず、問題を見てみましょうか」

各々が乗船時に渡された封筒を取り出す。中には船内見取り図と、一枚のカードが入っていた。

「文章が虫食いになってるね」

「結構、抜けが多いなあ」

カードには次に行く場所が書かれていると思われるが、ほとんどの部分は四角く切り取られて穴が開いていた。始めの「ま」の字、その後三マス空いて「屋」、その後もぽつぽつと文字が書いてあるが、読めたものではない。

「ここまで穴空きが多いと、内容の予測もできませんね」

首を傾げている姿をぼんやりと眺めていると、俺はあることに気付いた。

「……抜けてる場所が、人によって違う」

「え?」

俺の言葉で、互いにカードを見せ合う。

「ホントだ。ということは……。みんな、カード貸して」

花枝嬢が五枚のカードを回収し、重ねた。すると、切り抜かれた枠から他のカードの文字が覗き、読める文字が増えた。

『ま□は部屋に戻り身□度を□えよ。一休み□れば道は開□る』

全ての文字は埋まらなかったが、これなら解読できる。

「『まずは部屋に戻り身支度を整えよ。一休みすれば道は開ける』かしら?」

彩菜嬢が、おっとりとした声色で読んだ。

「なるほど、知り合いがいない場合でも、このカードでスムーズにチームが作れるってわけだ」

空いている部分が違う人間同士で組めば、自動的に一チームできる。

「それで歌ヶ江さんの封筒と僕の封筒は、模様が違ったんですね」

「え、何それ」

「ほら、ここ。僕のは葉っぱが三枚で、歌ヶ江さんのは四枚です」

そう言って封筒を取り出し、エンボス加工された英字――を縁取る、植物を模した模様を指差す春日原。

「ははあ、見分けが付くようにしておけば、配るときに知り合い同士で重複しない配慮もできるわけね?」

言われて他の三人も確認する。と、花枝嬢と春日原が被っていたものの、それ以外は全員葉の枚数が違った。

「歌ヶ江と春日原くんは僕が呼んだから、別の封筒を配ってくれたってことかあ」

さすが豪華客船で行われるイベント、配慮が細やかだ。

「よく気付いたね……」

「偶然ですよ」

おそらく偶然ではない。

「歌ヶ江さんこそ、文字の抜け方が違うのによく気付きましたね」

「……ちょうど、見えただけ……」

上から四人のカードが覗けただけだ。それこそ偶然と言う他ない。

「この文章だと、部屋に仕掛けがあるのかな? 探検する前に着替えたいと思ってたし、指示通り部屋に戻りましょうか」

確かに、女性陣のドレスは広い船内の探検には少々難がある。俺も、着慣れないスーツで歩き回るのは遠慮したい。

「じゃあ、再集合場所は……、一番広いから、彩菜さんの部屋でいい?」

「うん、大丈夫」

青山の意見に彩菜嬢が頷き、一同は一旦解散することになった。

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