今日は出会ってからの3周年記念日

@grow

第1話 愛しているからそばにいさせたい

今日はとても機嫌が良い。

いつもは人よりも頻度多く笑顔を浮かべるだけ。

けれど、今日は絶好調なのか、鼻歌を歌いながらスキップをする程の機嫌の良さだ。


「どうしたの麻美。すごく機嫌良さそうじゃない」

「あ、ゆかり〜。あのねあのね。今日は彼氏と出逢って付き合い始めた日でね、三年目の記念日なんだ。しかも、学校に向かう時に彼氏から「記念日だからお祝いしないとね」って言ってくれてね」

「おーそうなんだ。記念日を覚えてくれるなんて良い彼氏じゃん。あれ? 3年目って彼氏とはどこで出逢ったか聞いたことあったっけ? 3年前だと、高校2年だよね。買い物してる時とか?」

「ううん、違うよ。彼って転入生だったんだ。入ってきた時に、こうビビビッ! ってきて、自己紹介してるのに私告白したの。「貴方を好きになっちゃいました。付き合ってください」って」


麻美の突拍子もない行動に慣れているゆかりでも、今の内容には言葉が出なかった。

え、それって一目惚れってこと? それともただのアホ?


「そしたらね、皆ポカーンだったんだけど、彼だけは別でね。超爆笑。それにつられてなのか、クラス皆で笑いまくったの。で、「君といると飽きなさそうだね。付き合おっか」って事でクラス公認のバカップルが誕生したの。それからはずっと一緒なんだー」

「はー。なんか、すごい話聞いちゃったわ。んで、そのバカップルの3周年記念のお祝いをやると」

「そうそう。授業が終わったらね、買い物に行くの。プレゼントしたりー、いつもは食べない料理を食べたりー、イチャイチャするんだー」


ごちそうさま、と返事を返すゆかり。

仲が良いとは聞いていたけど、羨ましいほどの仲の良さだ。

麻美に聞こえない声量で、彼氏ほしいな、と呟いていた。


-------------


最近は物騒だ。

不法侵入からの強盗、痴漢、誘拐、殺人。老若男女が被害者で加害者な時代だ。

大人の女性でも、恥ずかしがらないで防犯ブザーを持たないといけない。

麻美は実家から出ているので、より気をつけなくてはいけない。

キーロックと声紋指紋認証を解除して部屋に入る。


「ただいまー涼くーん。遅くなってごめんねー。パーティの準備するから、ちょっと待っててね」


テンションが上がっていた為、買い物がいつも以上に時間がかかってしまった。

その結果、まるでクリスマスかの様な豪勢な食事がテーブルに用意される。


「今日ね、ゆかりって覚えてるかな? 涼ちゃん。大学で初めてできた友達なんだけどね。その子に涼ちゃんと初めて出逢った日の事を話したんだよ。もうね、思い出しただけであの時の嬉しさが蘇ってきたよ。どう? 涼ちゃんも思い出してこない?」

「・・・ああ、あの時ね。うん、覚えてるよ。あの時から日常が180度変わったよね」

「そうそう。今までも嬉しいことや楽しいことはあったけどさ。涼ちゃんと出逢って、その上付き合うことができて、もう、世界が変わったように見えてね」


パーティの準備ができるまで隣の部屋で待ってもらっている涼ちゃんとの会話。近くに大好きな人がいるだけで。何気ない会話が出来るだけで、幸せな気持ちが溢れてくる。


だからね。この日常は失くしたくないの。


涼ちゃんがいれば私は家事も学校もアルバイトも、卒業後の仕事も何だって頑張れるんだから。

ミスをしてしまっても家に帰って涼ちゃんに慰めて貰えば、もう同じミスはしないようにする。

悲しいことだけでなく、嬉しかった事を話してその感情を涼ちゃんにも感じてもらいたい。


「よし、準備できたよー。涼ちゃんー一緒に食べよー」


涼ちゃんに声をかけながら扉に向かう。

キーロック、閂、チェーン、指紋認証。それらのロックを解除し部屋に入る。


部屋の中はまるで一人部屋の借家のように広く何でも揃っている。冷蔵庫、レンジ、炊飯器、食材、水道、トイレ、簡易お風呂、ベッド。

部屋の中央では、先程の会話が楽しかったのか、パーティが楽しみなのか笑顔を浮かべている涼ちゃんが座ってこっちを見ている。


「さ、涼ちゃん。パーティを始めよ。こっちこっち」


両手両足、そして首に金属のアクセサリーをつけた涼ちゃんが麻美の声に合わせて立ち上がり食卓に向かう。

その彼の背中を見続ける麻美。


「今日は出逢って3周年の記念日。これからもどんどん記念日が増えるね。だってずっと一緒なんだから」

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