モブの事件簿
ソルエナ
第1話
恋愛漫画とかの端っこにいそうな、そんなモブ顔をしている俺は
食卓にはいつもの俺用の食パンとジャムが置いてある。台所からはいつもと変わらぬ母さんが宿泊客用の朝食を
いつもと違う事に対してなのか、少し違和感を覚えつつテレビを見てみると、最近話題になっている凄腕経営者の
リポーターが声を張り、満面の作り笑いで西川にありふれた挨拶をし、カメラへ目線を移すと西川の紹介を始めた。
「今回はたった一人で小さな家具店から大手家具メーカーへと成長させた凄腕経営者の西川利吉さんにお話を聞いていきたいと思います!それでは改めて西川さん、今回はよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。」
西川も負けじと作り笑いで挨拶を返す。
「ちょっと雄都、チャンネルを変えるときは一声掛けなさいっていつも言ってるでしょう?」
台所の方から母さんの無感情な声が聞こえる。
「あぁ、忘れてた。ごめん。」
食パンに雑にジャムを塗り、口の中に放り込み手際よく学校に行く準備をし、家を出る。
家を出るとこの田舎には相応しくない、隅々までよく手入れがされていそうな車が家の前に止まっていた。残念ながら、どう言う車かは詳しくないので分からないが、とにかく高級そうな車である。
ふと不審に思い、車の中をそれとなく覗いてみたが車内にも、車の外にも誰も居ない。
これ以上この車を探しても意味はないと思い、学校に向かう。
高校に着き、大きく深呼吸をしてから校門をくぐる。無駄な深呼吸だと思われてしまうかも知れないが、この深呼吸は俺の中で最も良い程大事な儀式であり、日課でもある。儀式、と言うと大袈裟に聞こえるが、校門は学校と言う名の地獄へ続く道なのだ。
必死に気合いを入れ、校門に足を踏み入れようとする俺のそばを数人が通り抜けつつ俺を苦虫を嚙みつぶしたような表情をしつつ通り過ぎて行く。
教室に入ると、
俺は元から無い存在感を更に薄め、自分の席に着き周りの様子をそっと伺い、聞き耳を立てる。
「ねぇ、橘さん、あの西川社長がこっちにきてるって本当なの?」
「何?あんた私の事疑ってるわけ?本当よ。だってこの目で見たもの。」
「あっそうだよね、橘さんが嘘言うわけないもんね、ごめんね?」
橘に睨まれた取り巻きの一人は怯えた表情ですぐに橘の機嫌を取る。他の取り巻き達も慌てて橘周りを囲み必死に機嫌を取る。
「そう言えば、西川社長はなんでここに来たのかしら。」
一人の取り巻きが橘を更に怒らせる可能性が高い中、決意を固めたような表情で尋ねる。
「こっちに別荘を探しに来てるみたいなのよ。詳しくは聞かせてくれなかったけどね。」
少し得意げに質問をして来た取り巻きを見遣る。取り巻きは安心した様な表情で嬉しそうに頷く。
そんな日常的な光景を横目に見ながら、その聞き覚えのある西川という名を思い出そうとするも、どうしても昔に母さんと幼かった俺を捨てて家を出て行った父親のことを思い出してしまいうまく思い出せない。
気が付くと丁度先生が教室に入って来て居た。橘もその取り巻き達も何事もなかったかのように席に着く。
授業が始まってもどうしても身が入らない。脳裏にチラつく西川と言う名前と幼い頃に俺達を捨てて出て行った父親。
父親の事を考えて居たら、朝に見たテレビ番組を思い出した。確か、テレビ番組で特集されていた家具メーカーの社長の名前が西川といったような気がする。
もし、橘言っていた西川と俺の思い出した西川が同一人物なのだとしたら、確かに別荘を探しに来たと言うのも頷けるのだが、
別荘になりそうな建物を立てている様子もないし、かと言って別荘に出来そうな建物もない。
ただ、自分の家の事を持ち上げる様な言い方をしてしまうのだが、我が家はこの田舎の中で一番と言って良いほど大きい家なのだ。その家を持て余している為使用していない家の半分を宿として貸し出しているのだが、あの家であれば確かに別荘としては良いと思う。
この仮説が当たっていたら、家が買収されると言うことになる。俺にとって最悪の結果になってしまう為、この仮説が外れている事を願うが、どうも嫌な予感がする。
昔、祖先はこの辺りを治めていた将軍に何かしらで称えられ、大きい家を貰ったらしいのだが、他にも何件か同じ様な家があったのだが、その家のほとんどが土地を売ってしまい、最終的にこう言った家はウチ以外に無くなったのだ。
もし買収されそうになっていたらと思うと、目の前の景色までが全て作り物の様な感覚に陥る。
学校が終わり、すぐに家に戻る。人生で初めて帰宅部で良かったと心の底から思った。
家を出た時に見た黒い車がまだ家の前に置いてあり、急いで玄関に入ると普段は母さんと俺の靴が合わせて3つ程しかないのに対して、今日はたくさんの靴が綺麗に列になって並べられている。そして、何よりも異様なのが並べられている靴が俺と母さんの靴を除く全部の靴がピカピカに磨かれた革靴なのだ。
客人の為の玄関ではない為、関係者以外使わない玄関にそんなに沢山の靴が並べられている事は滅多な事以外ではあり得ない。
身内に不幸があると言う事は、身内に絶縁されている俺らにとって関係がないのである。
とすると、最終的に俺の思考は午前に立てた仮説が当てはまるのではないかと言う結論に辿り着いた。
自分で立てた仮説が外れている事を信じ、急ぎ足で客間に向かう。
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