第165話 魔球
「へっ!?」
死織が見つめる先で、カエデは右手に摑んだ火球を、猛烈な握力で握りつぶす。
そこから長身の魔法少女は、腕を左右に開くと、足を高く上げる投球フォーム。その体勢から、ものすごい大きなモーションで豪快な……、マサカリ投法!
びゅーんと走った火球は、握りつぶされて重心が狂ったために、変な回転を受けて螺旋飛行。そのため、本来直進しかしないはずの火球は軌道計算が狂い、バグが生じる。火球の位置と軌道が錯綜し、螺旋を描いた火球は7つにもに分離し、それらがいっせいに雪女の身体にヒットした。
死織はあんぐりと口をあける。
──あれ、なに!? なんなのあの分身魔球。あんなバグ技、あいつどうやって見つけたの?
7発の砲弾をくらった雪女の身体は、その8割以上が一瞬で蒸発する。水蒸気の白煙と雪の細片の爆発の中、宙に一つ、きらきら光ってくるくる回るひときわ大きな雪の結晶が残る。あれこそが雪女のコア、不死身の仕掛けである。
とびちった雪片と水蒸気が、そのコアを中心にふたたび凍結して雪女の身体を再生しようとする直前。
膝撃ち姿勢のヒチコックの、すでに溜めに入っていたチャージ・ショットが火を吹いた。
まだ慣れていないため、溜めが完全ではないが、雪の結晶を撃ち抜くには十分なチャージ。
溜め2・5くらいだったが、ヒチコックの放った45口径弾が、チャージ特有の赤い光弾となって、きらきら回る雪の大結晶にヒット! 見事に撃ち抜いた。
雪女のコアが撃ち砕かれ、冬の木枯らしが木々を鳴らす
雪は溶けたら、ただの水。細かい水滴と水煙となって、昇天してゆく妖怪雪女。
『ヒチコックさんが、雪女を倒しました』
この表示は、パーティーメンバー全員の視界の中を流れる。これ以上に味方の士気を高めるアナウンスはない。
「イガラシ、そっちは行けるか?」
死織は、大狸、隠神刑部の頸に噛みついている白銀の人狼の様子を確認する。巨大な狼の獣人に変化したイガラシの返答は、ぼきりと響く、タヌキの妖怪の頸骨が砕ける音だった。
『イガラシさんが、隠神刑部を倒しました。妖怪ハンターの称号を得ました』
イガラシが口のまわりを真っ赤に染めながら、自慢げに立ち上がる。彼女の足元にころがるタヌキ親父の妖怪の死骸が、きらきらと光る細片に砕けながら昇天してゆく。まるで獣人の勝利を祝う光のデコレーションのようだ。
──あと、残りの妖怪は、鎌鼬と妲己狐のみ。
死織はすばやく戦場を見回す。
だが、おかしい。隠神刑部が死んだというのに、押し寄せてくる火盗改こと八百八狸の眷属どもの勢いが衰えない。つぎつぎと本殿脇の庭から湧いて出る敵の軍勢が、闇奉行配下の剣士たちを数で圧倒しはじめていた。
奮戦する将軍政宗も闇奉行も、真冬でさえも、じりじりと押されている。死織はヒール・プラスを放って味方を回復し、すかさずスター・シャインで攻撃するが、この調子でMPを消費し続ければ、このあとに控えている妲己狐にどれほどのMPが必要か皆目見当もつかないのが不安だ。
肝心なところでMP切れだけは、回復職として一番したくない失敗である。
だが、なぜ敵の八百八狸は、無限に湧き続けるのか? てっきり隠神刑部を倒せば消えてなくなると思ったのだが……。
それとも、あいつら。本当に八百八匹いるのか? いや、だとしてもこの湧き方はなにか不自然だ。まるで……。
──そうか、そういうことか!
死織は八百八狸が永遠に湧き続ける仕掛けに気づき、叫んだ。
「真冬さん! 拠点兵だ!」
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