ロレックスは首を傾げる

第95話 エクスキャリバー?


 ロレックスが自室で朝食をとっていると、死織が突然に来訪した。

 こんな朝からなんの用事だと思ったら、買ってもらいたいものがあるらしい。

 つまらないものだったら容赦はしねえと舌打ちしたロレックスだが、取次のメイドから話を聞くと、どうやらそれは強力な武器であるという話だった。

 ちょっと興味をそそられた彼は、朝食をかたづけるようNPCのメイドに命じて、応接室へ急いだ。


 ドアをあけて、足早に入ると、ソファーに腰かけもせず、窓際で腕組みして立つ赤いチャイナドレスの女の姿があった。三つ編みを輪っかにした、細身で長身、巨乳で童顔の麗人。パッと見、これが中身おっさんだとはちょっと思えない。はっきり確かめていないが、案外実は女だったりするのだろうか?


「待たせたな」

 興味なさそうに、わざと言ってみる。


「いや」

 背中を向けたまま、死織がつぶやくように答える。


 すでに駆け引きは始まっていた。すこし遅れてダイブスが入ってくる。死織の姿を認めて、彼は反射的に、腰の刀の柄に手をかけた。苦笑してロレックスはそれを制す。


「で、買ってもらいたいものってのは?」


「ああ。これだ」

 さも忘れていたとばかりに、死織は振り返り、ソファーのところまで歩み寄る。その彼女の手の中にするりとアイテムが出現する。細長いシルエット。どこからもとなく出現したのは、一振りの剣だった。


 金色の拵えに、銀のパーツが合わせられている。革巻きの柄。優美なデザインのハンドガード。カテゴリーは長剣になるのだろうか。

 死織が差し出すその長剣をロレックスは受け取り、ステータス画面を開いた。


「なに!?」

 思わず目を瞠る。


 拡張現実風に眼前に展開された画面には、こう表示されていた。



   <エクスキャリバー>

 攻撃力     1000

 装備LV      30

 値段  1000000G

 カテゴリー  SSSレア



「エクスキャリバーだって? 本物か、これ?」

 思わず訊ねたが、愚問である。偽物でこの数値はあり得ない。まず、プレイヤーが作ったオリジナル武器で攻撃力1000というのは無理な話だし、そもそもプレイヤーが作った武器ならカテゴリー欄が『オリジナル』となるはずだ。しかし……。


「エクスキャリバーとは、ユニーク・ウェポンだと聞いたことがあるが、SSSレアなのか?」

「みたいだな」

 死織はこともなげ。

「どこで手に入れた?」

「企業秘密」

「本物なのか?」

「疑うなら、それでもいい。他をあたる」

「まて」


 ロレックスはエクスキャリバーをダイブスに手渡す。黒衣の護衛はステータス画面を開き、難しい顔でそれを見つめていたが、やがて顔をあげ、ロレックスの目を見つめて、微かに首を振った。


 分からない、という意味だ。

 ロレックスは、顎に手を当て、「ふうむ」と考える。


「どうする?」死織が無表情にたずねる。「買うかい? 買わないかい? いずれにしろ、攻撃力1000で、SSSレアだから、100万Gでも買い手がつかないってことはないだろうけど、まずはお前さんにと思って持って来た。要らないんなら、持って帰るぜ」


「ふむ」ロレックスは苦笑交じりに首を傾げた。「信用しないわけじゃないが、俺にはどうも剣のことはよく分からん。少しの間、考えさせてくれないか」


「いいだろう」ロレックスが返したエクスキャリバーをストレージに仕舞いながら死織は微笑む。「欲しくなったらいつでも言ってくれ。ただし、いつまでもあるとは思わないでくれよ。早い者勝ちで売るつもりだから」


 死織は踵を返すと、颯爽と応接室を出て行った。


 ドアがしっかり閉まるのを確認してから、ロレックスはダイブスに問う。

「どう思う?」


「わかりません」ダイブスは首を小さく横に振る。「偽物ということはないでしょうが、でも、これが本物のエクスキャリバーだとすると、カテゴリー・ユニークのはずです」

「だが、誰も見たことないんだろう?」

「そうですが……」


 2人が黙り込んでいるところに、メイドがやってきて、再び来客があったことを告げた。

「またか」

 ロレックスがため息をつくと、NPCのメイドは無表情に客の来意を告げる。

「買ってもらいたい武器があるとのことです」

「またか」

 うんざりとロレックスはつぶやく。

「ユニーク・ウェポンのエクスカリバーだと言っていますが」

「なに?」

 ロレックスは驚いてメイドを振り返り、すぐにダイブスへ顔を向けた。

 さすがのダイブスも、唖然として口を半開きにしていた。







<作者より>


 この第4章におきましては、故意に読者のミスリードを阻むような書き方をしています。これは、謎は全く解かれないより、ある程度解かれた方が面白いだろうという、ぼくの認識によるものです。

 よって、個人的な推測ですが、おそらく半数以上の方々には、先が読めるような演出になっております。

 よって、純粋に物語をお楽しみ頂きたい読者の方々には、以降「死織編」につきましては、コメント欄を開かないことをお勧めいたします。

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