第23話 ときめき銃撃戦


「うっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!!」


 絶叫しながら連射ラピッド・ファイアしたが、1発も当たらなかった。

 ゴブリンどもが振り向き、凶悪な貌でこちらを睨んでくる。怖っ!と思ったが、立ち止まり、両手でしっかり銃をホールドして狙いをつける。

 ヘッドショットはダメージ2倍。だが、いまは落ち着いて、どてっ腹の真ん中に向けてトリガーを引く。


 ガンっ! ガンっ!


 目が覚めるような銃声が朝焼けの空に響く。ヒチコックの手の中でガバメントが暴れ、スライドが叩かれたように後退して薬莢を吐き出す。腹を撃たれたゴブリンが血を吹いて殴られたように後ろへひっくり返る。


 やった! 心の中で快哉をあげるが、ガッツポーズは取らない。いまはクールに銃を構える。


 村の門の土嚢に取り付いていた他のゴブリンが、怒った猫みたいに顔をゆがめて歯を剥いて、しゃーっと唸った。

 そこへ飛び蹴りでミサイルみたいに突っ込む死織。

 吹き飛んだ相手にパンチの連打を浴びせ、空中にいる敵に肘打ちから膝蹴り、こうという肩からの体当たりをフルセットでぶち込む。カウンター・ボーナスの文字を表示させて、光の破片に爆散するゴブリンの死体を無視し、振り返った死織はさっと戦場を見回す。


「後ろだ! ヒチコック!」


 あっと振り返ると、目の前に鉈を振り上げたゴブリンが迫っていた。反射的に銃をあげてトリガーを引くが、どんなに力を入れてもガバメントのトリガーは動かない! びくともしなかった! ぞっとする死の恐怖が、ヒチコックの背筋を電瞬の勢いで駆け上がる。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!」


 悲鳴をあげたヒチコックの目の前を紅蓮の火球が突き抜け、砲弾のようにゴブリンの体をね飛ばした。

 横ざまに吹き飛んだゴブリンの身体に火が付き、炎に焼かれた小鬼が草の上でのた打ち回る。やがて追撃の火球がもう一撃! 着弾によって吹き飛ぶように細かい破片となって砕け散るゴブリン。


「ヒチコックちゃん! だいじょうぶ?!」

 振り返ると、土嚢の向こう側に立つ長身の魔法少女。

 ひらひらしたスカートの裾を翻して、マジック・バトンを手にしているのは……。


「カエデさん!」

 ヒチコックは半泣きで叫んだ。


「油断しないで!」

 叫んだカエデは、マジック・バトンを軽く一振りすると、その先端に火の玉を作り出す。バトンの先端に魔力で作られたファイア・ボールを、カエデはむんずと右手で鷲掴みにすると、両足をそろえ、両の手を胸前に構える。

 セット・ポジションから片足をあげる。大きく足を踏み出し両腕を左右に開いた体勢から──、豪快な、ピッチング!


 びゅーんと勢いよく投球されたファイア・ボールが、一直線に空間を裂いて、遠くのゴブリンの頭を吹き飛ばす。

 ヒチコックは、カエデの投球を、唖然と見つめた。


「いやー、あたしさぁ」カエデが大声で告げる。「中学高校と、女子野球部だったんだよね。で、ポジションはピッチャーでさ」


 言いながら、軸足を中心に身を翻して、一塁へ牽制球! みたいなモーションで、左方へファイア・ボール!

 ふたたび、ゴブリンの頭が吹っ飛んだ。


 死織がちいさく肩をすくめる。

「ファイア・ボールは、当てにくい分、威力がでかい。すでにあいつ、LV2でやんの」


 ヒチコックはほっとした。そして、はっと気づいて銃を確認する。スライドが後退位置で止まっている。残弾ゼロでスライド・ストップがかかっていたのだ。


 ──油断しちゃダメだ!

 ヒチコックは自分に言い聞かす。


 ガンナーはクールでないと戦えない。絶えず残弾を数えないと、今みたいなことになる。強く戒めて、空マガジンを抜き取り、ポーチから実弾のびっちり詰まった次のマガジンを抜いて銃把に挿入する。スライド・ストップを押すと、スプリングの力でスライドがかしゃっともどり、初弾が薬室に装填された。


 ──落ち着いて行こう! あたし!


 銃を両手でしっかりホールドし、肩口に寄せる。人差し指を立ててトリガーから離した。人差し指は、ターゲットに銃口を向けた時までトリガーにはかけない。これはイチローさんの教えだ。


「ヒチコック、ここはリリーフ投手のカエデに任せよう。おれたちは、南門に回る」

 死織が土嚢に手をついて、チャイナ・ドレスの裾を翻しながら、ぱっと飛び越える。

 ヒチコックもつづいて土嚢に手を突き飛び越えた。


「向こうからも敵が来ているみたいなんだ」酒瓶をもったタカハシが告げる。「救援にいってくれ!」

「わかった!」

 返事しつつも、ヒチコックはタカハシの手にした酒瓶が気になる。

 なんだろう、あれ? 瓶の口に布が突っ込まれ、火が付けられていた。ロウソクの代わりだろうか?


「火炎瓶だよ」死織が解説する。「投げつけて瓶が割れると、中のアルコールが飛び散って、相手が火だるまになる。空瓶と酒樽があれば作れる攻撃アイテムだな。覚えておくと、役に立つ……こともある。行くぞ!」


 死織は村の反対側、南門へ向けて駆けだした。ヒチコックも追う。


「南門からも敵ってことは」ヒチコックは走りながら死織に訊く。「流されたゴブリンたちなんすかね?」


「ちがう」死織は強張った表情で首を振る。「別動隊だ。ゴブリンどもを指揮している奴がいる。おそらく、そいつが……」


「助けてくれぇーーー!」

 向こうからテッドが両腕を振り回しながら駆けてくる。

「誰か、助けてくれ!」


「どうしたっ! テッドぉ!」

 死織が全力疾走しながら叫び返した。


「お……が、おっがだ!」

 テッドは意味不明の言葉を叫びながら、ふいに泣きだす。

「オォォォォガだぁ! オーガが襲ってきたぁ! メイミーが……、メイミーがぁ!」

「任せろ! 俺がいく!」

 死織は血相を変えて加速する。

 ヒチコックも負けじと地を蹴った。





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