第9話 空中コンボ


「ほわたぁっっっ!」

 死織は飛び出した。


 クレリック(男性の場合はモンク)のみにある格闘スキル。すなわち武器を使わない素手の攻撃。

 ヒチコックの前に割り込んで、ブルー・ウルフの顎に下から強烈な蹴り技・端脚たんきゃくを入れる。コマンドである→Kをすばやくアイコンタクトで入力。

 死織の蹴り足を喰らった獣が、大顎から唾液を飛び散らせて上へ弾け飛ぶ。


 ──行ける!


 死織は確信した。

 飛び込んでパンチ、パンチ。PPの連続技を叩き込み、そこから派生の肘撃ち。すかさず連続しての膝蹴り。蹴り上げられて、さらに浮き上がる獣の巨体。


 ↘P+K!

 浮かせ技! 金鶏独立!


 最上レベルの高さまで浮き上がる青黒い巨体。


 もらった!


 空中の相手に、旋風脚! K+G!

 ミドルキックの蹴り足で拾い、そこから背中をぶち当てる打撃技『七寸靠しちすんこう』! ↓P+K!

 これは大ダメージ!


 そして、追い打ちの連掃腿。2連撃の足払い! ↓KK!

 これが、着地しかけたブルー・ウルフの巨体を引っ掛けて、さらなるダメージ!


 死織の空中コンボを喰らったブルー・ウルフが、ダメージの数字をぱらぱらと表示しながら、打撃にのたうち、翻弄されて、「オーバーキル・ボーナス!」の文字を表示しながら、地上すれすれで爆散した。きらきらと光る微細な小片となって砕け散ってゆく。


 敵を倒して得た経験値と賞金額が表示され、視界のすみで死織のEXとGの数値が少しだけ上昇する。が、彼女はそれどころではなかった。


「おいおいおい、おいっ! いまの見たかっ! ヒチコーークっ! いまの空中コンボ、みたか!?」


 死織は、小躍りしてヒチコックの周りを駆け回った。


「11連撃だ! 11連撃の空中コンボが入ったぞ! あんなコンボが成立するなんて! なあ、見てたか!」


「いや、あのー……」

 いまいちリアクションの薄いヒチコック。

「凄いだろ! 凄いよな? いまの空中コンボ、見てたよな?」

「あのー、3発目くらいで、死んでましたけど……」

「11連撃も入ったんだぞ!」

「いやー、もうちょっと真面目にやりましょうよ」

「真面目にやっとるわい! 俺は空中コンボに命かけてるの!」

「いや、助けてくれたことは、感謝してますけど」

「そうだろ? あ、そういえば、なんで弾、出なかったんだ」


「ええ、それは」ヒチコックはシリアスな表情で死織を見上げる。「安全装置を外し忘れてました」

「おまえこそ、真面目にやれっ!」

 死織はヒチコックの頭をブッ叩いた。




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