Wars:18 暴虐神への葬送歌

序章【塔内の冥府にて待つ】

 深淵。

 静謐せいひつ

 どこまでも広がる闇を照らすが如く、鬼火が虚空を漂う。

 白亜の塔内であることを忘れさせるほどの暗闇に、ここを訪れる者は確実に混乱することだろう。まるで地獄の底のような冷たく、暗い世界なのだ。


「ふはは、はははは」


 そんな静かで冷たい世界に、地の底を這うような低い笑い声が響く。


「我の前に現れたか、母上の敵よ」


 先に生まれ落ちた母は、東の国を支配したと聞いた。

 しかし、母の部下にあたる天魔の一人が叛逆を起こしたのだ。そのせいで母は苦しみながらこの世を去り、そうして彼が生まれた。


「待っていたぞ、憎き敵よ」


 この手で彼奴を殺してやるのが、心からの望みだった。

 他にはなにもいらない。勝利も、敗北も、記号に過ぎない。必要なのは敵討ち――母親を殺した敵をこの手で殺してやるのが、彼にとっての生きる意味だ。

 その時は、徐々に近づいてきている。

 大丈夫だ。創造主からお墨付きをもらって、彼はこの場を任されている。あとはここを訪れた、母の敵を無惨に殺してやるだけだ。


「さあ、ここまでくるがいい。御前を殺してやる。殺してやる。殺してやる」


 殺意に満ちた彼は、低い声で再び笑う。

 母の敵である少年を、この手で殺してやることを夢見て。

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