第15話【謝罪は虚しく終わる】
姉ちゃん、ごめんなさい。
おれ、姉ちゃんを困らせてばっかりだ。
姉ちゃんは毎日毎日泣いている。
泣きながら、おれに「ごめんなさい」って謝ってる。
謝るのはおれの方だ。
姉ちゃんを困らせてるから、おれはできの悪い弟だ。
姉ちゃん、おれ、悪いところは全部直すから。
だからもう泣かないで。
姉ちゃんを困らせるようなことは、もう言わないから。
お願いだから、もう泣かないで。
おれ、姉ちゃんが笑ってるところが好きなんだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
巨大な水槽の中は緑色の液体によって満たされていて、そこには少年が瞳を閉じた状態で沈められている。水槽の天井部分から伸びた管が少年の口に咥えられていて、少年が酸欠にならないようにと常に酸素が送り込まれている。
彼の姉である少女は、冷たい床の上にぺたりと座り込んで泣いていた。
ひたすらに緑色の液体の中に沈む少年へ謝罪していた。
何度も何度も「ごめんなさい」と謝って、それでも彼女は少年に対して謝りきれないほどの罪を重ねた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ダメなお姉ちゃんでごめんなさい」
あなたはなにも悪くない。
悪いのは全て自分なのだ。
だから何度も謝っても、少女の罪悪感は消えてくれない。きっと弟は優しいからなんで謝っているのかさえ分からないと思うけれど、自分を通じて彼にやらせてしまった罪は弟に気づかれてはいけない。
伏せていた顔を上げて、水槽の中に沈む弟を見据える。
彼の右腕は肩からごっそりと切断されてしまっていたが、今は肘の辺りまで回復している。よかった。これで弟は死なない。
「ごめんなさい、ごめんなさい――でも、お姉ちゃん頑張るから。これが終わったら」
――また、三人で暮らそう。
あの時のように、幸せな食卓を。
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