開店三周年

みし

開店三周年

「開店三周年の記念になにかやりたいと思うが何かアイデア無い?」

 俺がバイトに行ったらマスターに突然言われたセリフがこれだ。ここは閑静な住宅街にある喫茶店。香しい珈琲の匂いが漂う気品のある店である。珈琲にこだわりのあるマスターが厳選した豆を挽いて出すのが売りのごく普通の喫茶店。

 髭のあるマスターの出す珈琲店と近所で評判になっている……らしい。

「んー、無いです」

「そこを何とか……考えてくれ」

 流石に、給料以上の仕事をする気には……。

「良いアイデアを出してくれば給与をはずむから」

「是非、考えさせてください」

 そういったモノのアイデアなどすぐに出てくるハズも無く……出てこないアイデアをうんうん唸りながら考えて……。


 ……

 ……


「いや出てこなかったです」

「それは困ったな……。小百合さん何かアイデア無い?」

 同僚アルバイトの小百合さん《年齢不詳》にもマスターは聞いていた……それは……。

「ああ、それなら、良いアイデアがあります。まずこういうモノをお客さんに配って」

 小百合さんはニッコリ笑うと、厨房から持ち出した刃物を目の前に置いていきます。

「配って……」

 マスターがゴクリと喉を鳴らし前のめりになり話を聞いています……。いや、小百合さんに聞くのは間違いだ……。

「これで、殺し合いをして貰うのはどうでしょうか。最後まで生き残ったものに賞金を渡すのです」

 小百合さん《年齢不詳》が恍惚とした顔をして言います。……小百合さん《年齢不詳》は猟奇趣味が酷いのです。口を開くとスプラッターやゾンビものの話しかしません……やっぱりと言う感じでした。

「それだと店の中が血だらけになるよね……掃除はどうするのかい」

「てへ、そこまでは考えてませんでした。血まみれの喫茶店もオツでいいじゃないでしょうか?」

「良い訳あるかい」

 俺はたまらずツッコミを入れる……。

「ほんの冗談ですよ……」

 違う違うと言うジェスチャーをしながら小百合さん《年齢不詳》が弁明する。

「なんだ冗談か……思わず本気で用意するところだったよ……」

 もしかして、マスターは、本気でやろうとしてたのでしょうか……。

 頭が痛いん。

「じゃあ、佐鳴君はどうおもう?」

 マスターは、これからシフトに入る佐鳴君に聞いていた。

「んー、幼稚園から」

「幼稚園から?」

「幼女を連れてきまして……」

「幼女を」

「ええ、ハイ……」

「おっとそこまで」

 俺が佐鳴の口を慌てて塞ぐ……。こいつ、そのうちマジで捕まりそうだよ、お回りさん助けて。

 悲鳴を上げたい気分である。

「あー、なんで、斗夢留君、佐鳴君の発言止めるの。アイデアは最後までちゃんと聞いてあげなきゃダメだよ」

 ちなみ斗夢留と言うのは俺の事である。

「今のは犯罪臭が漂っていましたので」

「犯罪臭?」

「ええ、これ以上佐鳴の発言を許したらお店が潰れますよ」

「それは困る困る……」

 マスターが首を振ります。

「じゃあ、斗夢留君は何かアイデア無い」

「マスターは、そもそも、このお店で何をしたかったのでしょうか?」

「んー、お客さんに、香しい珈琲の匂いを味わっていただき、優雅な一時を味わって貰いたいことかな?」

「では、三周年でそれをやりましょう」

「でも、それって今でもやってない」

「出来てると思います?」

「んー分からん」

「少しゴージャスにしてですね」

「ふむふむ」

「例えば、珍しい珈琲を出すとか……ジャコウネコのフンを一杯五千円とか」

「ふむふむ。ジャコウネコのフンね……手に入るかしら。フン」

 コピ・ルアクの事を話しているのだけど……ホントにジャコウネコのフンを用意しかねんわ……このおっさん。

「いや、コピ・ルアクと言う珈琲があってですね……」

「あ、そういえばそうだったな。ははは。斗夢留君のアイデアは珍しい珈琲を集めてそれを楽しんで貰おうと言う企画だな。でも少し凡庸だな……それに小百合さん斗夢留君のアイデアを混ぜあわせると言うのはどうだろう。幼女のうんちを廻ってお客様がバトルロイヤル、良くない?」

「ダメに決まってるだろう」

 思わずマスターを張り倒した。

 大丈夫なのかよ……この店。

 バイトの時間が過ぎたので頭を抱えて店を後にした。




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開店三周年 みし @mi-si

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