年号戦記247!~高校生なのに創造主で新年号の教育係に!?~
@K2U
第1話 年号体あらわる
白昼夢みたいな夢を見た。
朗々と彼女の歌声が鳴り響くと、ブロンドの女は苦しそうに倒れこんだ。
浜辺の砂にかまわず頬を擦りつけると、吐血し、のたうちまわる。
俺は間髪いれずに膝を折るとその女の髪をひっつかむ。
「……おのれ、創造主」
「ごめんね、恨みはないんだけど……ほら、やめて差し上げて」
傍らに立っていた男を俺は制止させた。構えられたのは1950年製の小型拳銃M36で、こんな武器でとどめを刺そうとは、なんと酷いことをするのだと少し男の行動に引く。
だが、見過ごすわけにもいかない。
「でも消えてね」
俺は女の耳元である呪詛の言葉を呟くと、ブロンドの女は泣きわめきながらこの昭和25年の日本から消失した。
振り返ると男に苦言を呈した。
「スミス&ウェッソンってアメリカ製でしょ、敵に対して敵国製の武器をわざわざ使うのひどいよ」
男は自分の外套の砂を手で叩き落とすと、すまして返事した。
「イギリス製です。なのでそんなにひどくはないですよ創造主。1950年に日本警察で導入された武器です」
「彼女はさあ、日本人らしく今回は歌を使ったのに、銃はないでしょ銃は」
ねえ、さっきの歌さあ、例の?と俺が尋ねると彼女は恥ずかしそうに答える。
「御察しの通り、あの方がお好きだった琵琶歌で、力が宿る特別な歌です」
あの方は、あまり歌自体はお上手ではなかったんですけど、と彼女がいい、俺は内心面白くない。
「でた「あの方」、明治さんは本当に「あの方」贔屓で妬けちゃうな」
「贔屓なんて、そんな。私は……」
「あーあ、俺のあの子もそうなっちゃうのかなー」
俺のあの子、俺が名前をつけてあげる「あの子」のことを考える。
未だに「教育係」というのはよくわからないけれど。
「それはないです、創造主さまの「あの子」の「あの方」は生前退位となりますので、そんなに執着は持たれないと思います」
一世一代の年号はやっぱり特別です、と彼女……明治さんははにかんだ笑顔で言う。
「いろいろあるのね、君たちも」
「そうです、私たち年号体は事情がそれぞれ違いますから」
年号戦記247!~高校生なのに創造主で新年号の教育係に!?~
変な夢だった、と俺は毛布の上の資料を落としながらベッドを出た。
こんな夢を見るのも、やっぱり今の事情が深層心理にストレスを与えているのだろうか?
俺の親父は国文学者だ。
うちの父方の家系も、母方の家系も大体学者であり、銀大地家といえば知る人も多い。
日本屈指の研究者で、現在鋭意選定中となる、次の年号を発案する人間の一人でもある。
一人といったが、はっきりいえば最有力候補だ。
親父の選択した年号が内閣を通し、新年号となる可能性が高い。
それなのに親父は今、それどころじゃないのだ。
「俺は今から病院に行ってくる」
俺の部屋のドアを開けると、父親は無精ひげをこすりながら、眠そうな目で俺に告げて階段を下りて行った。
実は、我が家の状況というと、母は数日前、出産時に運悪く亡くなり葬儀を終えたばかりだ。
まだ生まれたばかりの俺の弟を残して。
弟は未熟児で生まれ、保育ケースの中にいる。
親父は病院に通い詰めで、つまり親父は子育て1年生というわけだ。
母の母親も、父の母親も、つまりは俺の祖母たちは両方他界していて、弟の面倒をみるのは父と、俺しかいない。
あまりの忙しさに、俺も親父も悲嘆にくれる暇さえまだない。
ゆえ、ベビーシッターを雇えと進言したのだが、親父は「他人は信じられない」とガンとして首を振らない。
それなら元号にまつわる仕事は別の人間に譲れ、適役がいるだろうと言うのだが、それも親父は譲らないという。
弟が成長してそんなことを知れば、自分のせいでと悩むかもしれないというくだらない考えすぎな理由で、だ。
先日、とうとう、なんと「お前が決めろ」と言いだした。
俺が決めて、父親がそれを提出するという信じられないプランだ。
国への冒涜だと俺はもちろんいった。
しかし親父は「どうせ年号は誰が考えたかなんて、決めた本人が亡くなってしばらくするまで明らかにしないし個なんてあってないようなものなんだ」という。
また、親父は常々、2歳で年号のベースとなる「尚書」や「揚雄書」を読みこなしていた俺をほめそやすが、絶対にただ押し付けたいだけだ。
それに次の年号になるころには、俺が成長して、自分以上の立派な国文学者になっているのだと勝手に決めてきた。
つまり、次の年号は俺が決める、決めるのだ……。
とんでもないこの重圧が、おそらく俺に今朝のような奇妙な夢を見せたのだと思う。
今回の改元は「特別」だ。
夢の中での言い方をまねると「あの方」が亡くなる前に次の年号に変わるのだから、今までとはシステムが異なる。
昔みたいに、何か災難やめでたいことがあっては改元していたほどではないが、なんだか妙な感じはある。
思考しながらも、身支度を終え、高校に向かうために家を出た。
高校一年生としての領分も果たさないといけない、年号も考えなければいけない、うう。
その瞬間、俺の青春とは、恋とは、と考えていたことがまるで具現化したようなことが起こ……りはしなかった。
目の前にいるこの子を、恋愛対象にはしてはいけない。
サラサラとした黒髪と切りそろえられた前髪と潤んだ瞳がいたいけな美少女だが、小学生だ、2年生くらい?
「あの、駅ってどっちですか?」
困った風に、俺の学生服の袖口を掴んできた少女に俺は膝を折って話す。
「えっと? 学校は行かなくていいの?」
「急いでおばあちゃんの家に行かなくちゃいけないの、おばあちゃんが倒れたって」
「そうなの? 困ったな、おうちの人は?」
送っていって、と差し出された左手を思わず取って、手つなぎという形になってしまったけれど、これって事案発生しない!? と不安を覚えながら立ち上がる。
そしてそのとき、なぜか美少女の口角がわずかに釣りあがると、黒髪が舞い上がり右手の手の平から光が見えた。
え?
「死になさい、創造主」
美少女の口から、似つかわしくない言葉が発せられるも、手は繋がれたままで……!
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