二大組織の影 その1

 第2コロニー「テトロミノ」の中心部に聳える777階建ての超巨大複合ビルディング「P.W.ヒルズ」――――――そのビルの一角には、まるで戦国時代の日本の天守閣のような内装を誇るエリアがある。


 有栖摩武装探偵社「会長室」

 そこでは、床の間に薄い本を山積みにしている、巫女服を着た狐人が、茜色の美しい和服を着た銀髪の女性と会話を交わしていた。


「こやっ、こやっ、こやっ。コロンブスがやられたようじゃの」

「あの人は「四牙」の中でも最弱の存在…………ではないのですが、幹部が打ち取られたとの報告を受け、社内は大いに動揺しています」

「じゃろうな」

「……まるで他人事ひとごとですね」

「ワシにとっては他人事じゃよ」


 自社の社員がやられたというのに、何かおかしそうに笑う狐人――姫木眞白。

 対する和服の社員――竜舞奏は、無表情ながらもやや不服そうだ。彼女は有栖摩武装探偵社の「番頭」のような役目を担っているので、大幹部の一人が突然抜けると、頭が痛いのだろう。

 ましてや、やられた大幹部である「鬼牙」コロンブスは、武装探偵社でも屈指の重要任務に就いていた。砂浜の砂が尽きようとも、この世から尽きることのない悪を、片っ端から壊滅させんと躍起になっている髭の中年や、色仕掛けをしまくって探偵社の評判を落としまくっている年増エルフよりよっぽど役に立つ人材だっただけに………


「ちょっともったいないと思いませんか」

「こやっ、こやっ、さてなぁ……。ところで話は変わるが、奏よ。お主は「竜牙」なんぞと呼ばれておるが、実際の竜についてどれだけ知っておる?」

「正直な話、つい最近まで竜の存在など信じていなかったのですが……」


 竜種にはいくつか種類があり、大まかに「火竜サラマンドル」「氷竜プラムド」「風竜ワイヴァーン」「地竜バジリスク」「木竜ドラセナ」「海竜リヴァイアサン」「雷竜リンドヴルム」などがある。

 各々の竜はそれぞれ森羅万象を操る強力な力を誇り、かつては人類では手も足も出ない存在だった。


「竜種にはな、特に強力な「天の三竜」という種族がおる。「空」を司り、星の天気を支配する力を持つ「雷竜リンドヴルム」……「意思」を司り、竜の絶大な力から弱き生命を守る「神竜アナンタ」……そして「破壊」を司り、竜種すべての頂点に立つ「暗黒竜バベル」……その中でも雷竜は個人的に数名ほど知っておるが、残りの二種はワシが知る限り1竜ずつしかおらぬ」

「そのうちの1竜とは、コロンブスさんがとらえ損ねた子ですね。なにやらミザネクサが血眼になって探っていましたので、先手を取ってわが社が抑えようと思ったのですが」

「こやっ、こやっ、それもそうじゃろうて。なにしろ暗黒竜にまともにダメージを与えられるのは、現状神竜をおいてほかになさそうじゃからな」

「………………あの、失礼を承知でお聞きしますが、藪をつついて蛇を出す様な真似をしたのは、わざと――――」


 最後まで言いかけて、奏は思わず息をのんだ。

 先ほどまで黒かった眞白の瞳が、金色に輝いている。


「こやっ、こやっ、そろそろワシも100じゃ。暗黒竜の1匹くらい葬っておきたいものじゃな」

「……できれば私がいないところでやってほしいですね」


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