少女一夜物語

みかるん

第1話

「あの時は必死だったね」


耳元でどこからともなく声がした

そして目の前にショートカットの黒髪女子がネオン街に歩き出す後ろ姿が見えた


「着いて来なよ」

...

「いままで見てきたものをもう一度思い出させてあげる」


その子は足取りがふらつき、目が潤んでいた



これから一夜が始まる

夜というものは一度だけでは済まないもので、知らず知らず一夜、二夜、三夜と連なっていく。読者の方々も途中退席は認めない。

是非とも言葉一杯ずつ楽しんで呑んで頂けたら幸いだ。連載と言う名のボトルを一本、読み干してやっと作品の味を感じ、そしてまた酔いもまわるだろう。



「おや!目が覚めたようだね!」


気づくと私は見知らぬ部屋の布団の上で眠っていた。ここはどこだろう??

六畳ぐらいの部屋の真ん中に化粧品が散乱している。またテレビや家具はなく、

全体的にスッキリしている。服も最低限ぐらいしか置いていないようだ。

目立つのがカロリーメイトの箱買い。ゴミ袋にコンビニの弁当やカップ麺の残骸が詰まっている。この部屋の住人は何をしている人なのだろうか。


「寝ぼけてるヒマはないよ、これから出勤なんだから。ささ、お風呂に入ってきて」


突然、頭の中から自然と声がした!

わけもわからぬまま、私の中でただ、お風呂に入って出かけなきゃいけないという強迫観念が浮かんだ。

ワンルームを出て風呂場へ向かい、急いでお風呂に入った。ちょうど湯船は温かく、体の疲れが腕やふくらはぎから痺れるように抜けていった。ふと自分の太ももに目をやった。細っそりとした若い女の体。肌は白くピチピチだ。もしかしたらこの肉体は10代なのではないか?

濡れた髪の雫をそっと指先でなぞると、曇った鏡を拭って自分の姿を映してみた。肩より上の長さに切り揃えられた黒髪。くるりとした大きな目に小さな唇。狭いおでこにニキビが一つできてきた。おぼこい印象だった。

風呂を済ませ、カロリーメイトを貪り食う。

堂々と散らかった、化粧品でメイクする。

自然と手が動く。まるで、いつものことのようにだ。ふと時計を見ると19時前だ。


「やばい、やばい、電車来ちゃう」


その辺のトートバックを掴み、化粧品を何個かポーチに入れる。そして、スカートを履き黒のブルゾンを羽織ると家を出た。

冬の寒さが全身を刺した。灰色に澄んだ空に月が浮かび、雲がするすると流れている。駅に着くとちょうど電車が来ていた。ぴぴぴ、改札をくぐり、電車に乗り込んだ。

携帯をチェックするとLINEがたまっていた。

————————————————————-

はやと

おはよー!ゆいちゃん今日の夜やねんけどさ

ごめんやけど今日の夜出勤できない?


れいら❤︎

ゆいに、Valentine渡そうと思ってたのに..._| ̄|○


ゆうぱんまん

興奮して誤字ったw


ゆーへー

めっちゃがんばってるな^ ^


まぁくん

あ、ありがとう笑


Hanging 陵

なしなんかーい!笑 記憶飛ばすぐらい飲ませてくれー笑(๑>◡<๑)


中竹 智徳

焼肉のお店選んどくから頑張るんだよ

————————————————————


はやとさんのLINEを開き

「今日できますよー!」

と一言送る


すぐに、既読になり

「んじゃ、よろしくね!」

と返信がきた


ふう。

さてほかのLINEも返していかなくてわ。

またも自然と手が動いた。


————————————————————れいら❤︎

そっかそっか。まじ残念(><)

またあそぼ!!


ゆうぱんまん

誤字らんといてw


ゆーへー

そんなことないで、ゆーへーさんもやろ笑


まぁくん

いえいえ♪またお店で待ってます



Hanging 陵

おはよー!今日もがんばるまん


中竹 智徳

ありがとうございます!!楽しみです

じゅるる(*^^*)

————————————————————


この子は一体何をしているんだ?

疑問に思いつつ、履歴をみるとほぼ毎日

LINEのやりとりを大量にしていた。

どれも中身のないようなくだらない会話

ちらほら電話の跡。こいつ男多いなーと思った。私には無理だ。けれど、ゆいちゃんぐらいのルックスならモテてて当然だろう。


妙に履歴の中で「はやと」という男が気になった。タイムラインを開いてみると、毎日呑んだくれている様子が見れた。

その時電車が止まり、終点に着いていた。

私は急ぎ足で電車を降り、改札前のトイレで途中だった化粧を完成させる。

まつ毛をビューラーで上げラメのアイシャドウを散りばめた。口紅を濃く入れ、カラコンに縁取られた瞳を眺めた。薄々分かっていたが、この子はこれから夜職をするのだと悟った。ふーん10代そこそこで生意気じゃん。

...面白い。着いてってやろう。まぁこの状態でだと着いていくしかないのだか。

きっとそこに、はやとってやつがいるのだろうな。ぴぴぴ、改札を出て外国人がやたらと多いひとごみの商店街を歩く、濁った川がありその上の橋をぬけ、飲屋街にたどり着いた。路上喫煙の煙がその辺に漂い、足元はごみだらけだ。きたないものには目を逸らし、迷いなくネオン街の中を私は歩いた。そしてディスティニービルの11階にたどり着いた。

少しドキドキした。扉を開くのに躊躇していると、後ろからかすれた声がした


「おはよーゆいちゃん」

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