しゃべる短刀とニンジャ
椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞
クニサダJr.
「お前と組んでもう何年だ、クニサダ」
「おっ、そうだな。かれこれ十二、三年か」
オレの武器「クニダサJr.」は、言葉を話す。
盗賊のちょっと上位クラス、「ニンジャ」の主力武器である短刀だ。
「最初は訓練用だっつって、おししょーから譲ってもらったんだよな」
「ナマクラ買うくらいならって、ずっと使ってくれたよな」
イノシシガニの身と甲羅を分離するには重宝した。
しかし、ヒドラの皮膚には通じなかったな。
どころどころ、欠けている部分がある。
しかし、あれから一三年、オレは十分に強くなった。
もうクニサダJr.に頼ることもないだろう。
「お前に弟子でもいれば、もうちょっとオレっちにも出番があったんだろうけど」
「いやいや、オレは弟子を取れるような一流冒険者じゃねーって」
「なに言ってやんでい? 一人で高難度ダンジョン攻略しちまうようなヤツがよ。嫌味か?」
そんな話をしていると、おかっぱの少女が話しかけてきた。
見た感じ、まだ十代の中盤位じゃないか?
気になったのは、その出で立ちだ。この歳でニンジャ職を会得しようなんざ、並大抵の精神力じゃない。
「あの、ニンジャのギルドマスター『ゲン・チガサキ』さんですよね?」
「ああ。確かにオレがチガサキだ」
「随分とお若いので、探すのに手間取りました。ワタクシ、ジュリと申します」
息を整え、ジュリはほんの少し笑顔を見せた。
「おいゲン、おめえ、まさか」
「そのまさかだ」
オレは、この娘を鍛える。
「ニンジャは命がけの仕事だ。一人で偵察もこなさなければならない。だったら、生存率が上がる訓練くらいはしてやらねえとな」
「あの娘は、やめときな」
突き刺すような、クニサダの言葉。
「ん? なんでだ」
「なんでもだ! あの娘を弟子に取るな!」
「やかましい。オレは弟子を取るぜ!」
オレは、ジュリの前で腰に手を当てる。
「やいジュリ! 今日からオレはお前を鍛え抜く。しっかり修行に励むように!」
「はい。ありがとうございます! おししょー!」
こうして、オレはジュリと師弟関係を結んだ。
ジュリは、冒険者になって父を探すのだという。
「おっ母は、『おっ父はきっと死んだんだ! 生きていても家に入れてやるもんかあのロクデナシー』って、未だに怒ってるんですけど」
「そっか」
「あたいがおっ父探してビンタしてやるって言ったら、冒険者訓練を認めてくれました。おっ父と同じニンジャになるっていうのは内緒だったんですけど」
三年の月日が流れ、ジュリの免許皆伝の日がやってきた。
雪山での特訓を終えて、オレはジュリの前にクニサダを差し出す。
「ジュリよ、よく耐え抜いた。これは、お前が持つんだ」
「これは、おししょーの大事な刀! 受け取れません!」
「いや。これはお前が持ってしかるべき刀だ」
クニサダは、何も語らない。
ジュリを修行してからずっとこうだった。
いつもなら軽口の一つや二つ飛んでくるのに。
「どうしたクニサダ、せっかくの」
「何か来る!」
強烈な魔力を放つ化物が、雪積もる大地に着地した。
真っ白な皮膚をした巨人が目の前に。彫刻のようにつややかな肌とは裏腹に、顔立ちは二日酔いのドワーフのように醜かった。
マジかよ。こんな何もない雪山に、デーモンなんて。
「まずいぞゲン。こいつは、オレが負けたヤツだ」
クニサダは、おししょーと同じニンジャ仲間だったらしい。
おししょーは、昔のクニサダの話をしてくれた。
クニサダには娘がいた。だが、自由奔放な生き方を望んだ彼は、家を出てしまう。
死ぬ直前のキャンプにて、クニサダは娘の写真を見せてくれたという。
しかし、ダンジョンで凶悪な魔物と出会い、命を落としてしまう。モンスターの弱点を見つけるために、犠牲となったのだ。
結果、情報の抱え落ちという、最悪の事態を招く。
危機に瀕したクニサダは、自らの短刀に魂を宿した。
その短刀を使い、おししょーは魔物の弱点を突く。
直後、短刀はオレに引き継がれた。
短刀「クニサダJr.」となった元ニンジャの魂は、駆け出しシーフだったオレを立派なニンジャにまで導いてくれた。
「ジュリ! オレが注意を引きつける。その間に逃げろ! 仲間を呼んできてくれ」
「は、はい!」
ジュリが駆け出す音だけ確認する。振り返って見届ける余裕もない。
白い悪魔は、オレに金縛りの術を放つ。
オレは息を吸い込んだ。腹が限界まで引っ込む。
「ポンッ!」
呼吸法だけで、呪文を弾き飛ばす。魔法なんぞで縛られるオレではない。
弱点である首をはねるべく、オレは高く跳躍した。
しかし、魔物は狙い澄ましていたかのように、刀を持つ手の方を砕く。
「なにいいいい!?」
キリモミしながら、オレは転落した。
折れた手は、使い物にならない。
反対の手を伸ばす。
そこに魔物の肘が、オレのみぞおちを抉る。
「ぐえええ!」
こんなはずでは。
三年の間に、魔物はここまで強くなっていたか。
いや、自分の力を過信していた。
やはり、自分はまだ弟子を取るには未熟で。
トドメを刺そうとする魔物に、無数の雷が降り注ぐ。
「おししょー!」
ジュリが仲間を連れてきてくれたのだ。
しかし、決定打に欠ける。凄腕の冒険者を連れていても、ヤツには勝てない。
かくなる上は。
「ジュリ!」
オレは、足下のクニサダに手をかける。
「受け取れええええええ!」
オレは、ジュリにクニサダを投げつけた。
ジュリはオレの投擲した刀を、空中でキャッチする。
「そいつの言うとおりにしろ!」
オレのアドバイスに、ジュリはわずかに首をかしげる。
「首だ」
クニサダが、指示を出す。
短く、確実に。
ジュリは全てを理解した。
余裕をかまして不用意に飛んだオレと違い、ジュリはオレの教えたとおりに、素早く跳躍する。相手の視界から消えるように。
相手は間違いなく気配を察知してこちらを予測してくるだろう。
そこが、付け入る隙。
ジュリはクニサダをブーメランのように投げ飛ばした。
クニサダの放つ気配が、降下するジュリの気配と、離れては混ざる。
冒険者の相手までしている以上、デーモンは上空の気配まで対処できていない。
ほんの一瞬の迷いを誘導した。
ジュリが、クニサダを足で捕らえる。
足の指でしっかりと握り込み、デーモンめがけて蹴りを放った。
デーモンの「ぼんのくぼ」に突き刺す。
彫刻のように突っ立ったまま、デーモンは絶命した。
「おししょー!」
ジュリが、倒れているオレをムリヤリ起こす。
「おししょー! 死なないでおししょー!」
ジュリにされるがまま、首がガクンガクンとなる。
「落ち着け、死んじまう!」
後の始末は、冒険者たちに任せる。
手柄や報酬も、彼らのものとした。助けてくれたしな。
ただ、デーモンを倒した称号だけは、ジュリが受け取れるように頼んだ。
さてと、これでクニサダともお別れだ。
ひとまず、ジュリからクニサダを返してもらい、軽く話す。
「おいゲン。てめえ、わざと手ぇ抜いたろ!」
「はあ? 言いがかりはよしてくれ」
「テメエ、最初からジュリに勝たせるつもりで、あんなショボいデーモン呼び寄せただろ?」
断じて違う。
確かに、「あそこで邪教集団がデーモンを呼び寄せる儀式を行っている」と、調査依頼は来ていた。
だが、実際にデーモンを呼び出せるかは、本人の腕に掛かっている。
もし、本当にヤバイデーモンが出てきたら、オレだって全力で対処したさ。
だが、ジュリでも勝てそうだった。
ピンチになったのは、単にオレがマジで油断しただけ。
強さを見誤ったのだ。
「分かってんのか? オレっちがどんだけ心配したか!」
「いいじゃねえか。親子感動の再会なんだから」
「あ、てめ! 知ってやがったのか!」
「いや、もしかしたらって思ってカマかけてみた」
おししょーから、名前も聞いてなかった。もちろんクニサダにも聞いたことはない。
幼すぎて、その娘がジュリと同一人物だと分からなかったのだ。
だが、剣に伝わってくる熱で分かった。
ジュリこそ、クニダサの娘なのだと。
「三周年記念のお別れだ。これからは、親子水入らずでやっていけ」
もういいぞ、とジュリを呼ぶ。
「見事だジュリ! これにて、免許皆伝とする!」
父親の魂がこもった剣を、ジュリは大事そうに抱く。
「ありがとうございます、おししょー!」
晴れて、ジュリはニンジャ職としての一歩を歩み始めた。
「けっ。寂しくなって泣いても帰ってきてやらねえからな!」
よく言うぜ。涙声になってるクセに。
まったく、素直じゃないねぇ。
しゃべる短刀とニンジャ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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