明治は始まったばかり
新座遊
これから先どうすりゃいいのん、坂本さん
「共通語縛りの会議シリーズ!」
「わい、ないゆちょっと?」
「また変なこと始めたよ、この人」
「ええやん、方言はわかりづらいわ」
「いやいや、それも方言やろ」
「まあええか。その縛りで会話しようか」
「で、本日ん議題はなんじゃっけ。いや、なんでしたかね」
「言い出しっぺの坂本さんからどうぞ」
「ではお言葉に甘えて不肖坂本龍馬が議案を提出いたします」
「それはええけんど、死んじょらざったんだな、坂本さん」
「ほらまた方言になってるよ、後藤さん」
「板垣さんはよう喋れるな、こがなお高うとまった話し方」
「まったくだ、おいには難しかね」
「話進まへんな。小田原評定かいな」
「これは岩倉さん、失敬。では、改めて。明治維新から3周年を迎えようとしている現在、我々はこの国のかじ取りを如何とっていくかを議論したい」
「そげんと毎日やっちょっど」
「大久保さん、だからこそ、そろそろ結論を出すべきですよ。どうです、木戸さん」
「たぁ言うてもな、どこから手を付けたらええのやら」
「版籍奉還、廃藩置県。やることはやってると思うけどね」
「足らんのは、武力かね」
「あたぁ、欧米に伍する経済力か。どうすればいいのか、わからんね」
「足らん人材は旧幕府の連中から集めればなんとかなるか」
「西洋文明をうめ具合に入れよごたっね。いや、入れたいもんだな」
「そうそれ!さすが西郷さん。若いころ忍者してただけのことはある」
「そんた言わん約束じゃろ」
「そがなん言うたら、坂本さんなんて英国のスパイやろ」
「あちゃあ、板垣さん手厳しい。しかしそれで殺されかけたんだから許しとーせ、いや、許してちょ」
「話を戻して。で、足らへんものが何なのかわからへんちゅうことが問題なんやろうね」
「そうそれ。その通り。我々は何が足りないのかすらわからない。なぜなら欧米の持っているものを知らないからだ」
「万国公法だけじゃ足らんよなあ」
「では見に行っか」
「何を?」
「欧米をこん目で見てみればわかっじゃろ」
「吉田松陰先生の悲願じゃったよなあ」
「よし、行くか」
「行こう行こう。で誰が行くんだ」
「不肖坂本は行きますよ。どうせ死んだことになってるんだし」
「おいも行こごたっね。じゃっどんおいが日本から抜けっと、暴発すっ奴らが出そうじゃしなあ」
「まあ西郷さんはやばいね。西郷さんの重しがなくなったら、桐野あたりが策動しそうで怖いわ」
「おいん代わりに大久保どん、行ってくるっか」
「よかどん、せごどん、共通語諦めたな、いや、西郷さん、共通語喋る気ないだろ」
「あいもはん」
「陛下の名代として、公家出身者も必要やろうさかい、うちも行こう」
「さすが岩倉さん。公家にあるまじきフットワーク」
「茶化しなや、坂本はん」
「ではまあ、誰が残るかを決めましょう。我々の外遊中に秩序を保つことを主眼とした留守政府となりますが、誰がいいですか。西郷さんは当然残るとして」
「太政大臣三条はんは必要やわな。あとは西郷さん、井上さん、大隈さん、板垣さん、江藤さん、大木さん、あと誰がええかね」
「え?わしも残るが?」
「おいも行きたかばいが」
「江藤さんはダメ」
「なんでだ、理由ば言えや、大久保さん」
「あんた理屈っぺで欧米人になってしまうわ。欧米かって頭叩かるっど」
「まあまあ、我々戻ってきたら、次はあんたたちに行ってもらうさかい、我慢してや」
「では結論です。維新三周年記念として、欧米に使節団を派遣します。留守政府は我慢してくださいね。不肖、坂本でした」
かくして、使節団と留守政府の対立構造が、ここに始まったのである。
明治は始まったばかり 新座遊 @niiza
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