三年目の片思い

水鳥ざくろ

第1話三年目の片思い

 ミズキと同じクラスになって今年で三年目になる。

 僕たちは特別進学クラス、いわゆる特進組なので必然的にそうなったのだ。特進のメンバーはほとんど変動が無い。だから、ほとんどのクラスメイトと三年間、共に歩んできたことになる。思い出もいっぱいだ。

 中でも、ミズキとの思い出は特別。僕は彼に一目惚れしてしまったのだから。

 あれは入学式の時のことだった。

 中学からの友達は皆、他の高校に入学してしまった。僕は友達作りに苦労するだろうな、と入学式のパイプ椅子に腰掛けながら考えていた。そんな時、彼が声を掛けてくれたのだ。


「えっと……もしかして特進?」


 僕は驚いて、詰まりながら答えた。


「う、うん……」

「じゃあ、一緒だ。えっと、出席順だから、席となりだ! よろしく!」

「……よろしく」


 明るい子だと思った。僕はどちらかというと大人しい性格なので、彼みたいな人は眩しくてなかなか近付くことが出来ない。そんな僕に、彼は自分から近付いてきてくれたのだ。


「俺。加藤ミズキ。よろしく!」


 その時の笑顔が忘れられない。

 それからずっと、ずっと、僕はミズキのことが好きだ。

***

 

「おはよ」

「おはよう」


 苗字が同じ「加藤」な僕らは席が前と後ろ。

 特進では席替えといった文化が無いので、この配置も三年目になる。彼が前で、僕が後ろ。最近の僕は、授業中でもぼんやりと彼の頭を眺めることが多くなった。

 好きなんだ。彼のことが。

 けど、言えない。今言ったら、せっかくの「友人」としての関係が終わってしまう。そのことが怖くて、告白なんか出来ない。

 そんな僕の心情なんか知らない彼は、今日もくるりと後ろを向いて僕に話し掛けてくる。


「あーあ。一限から数学か。宿題やった?」

「うん。答え合わせしようか」

「やるやる」


 彼は机の中からノートを出して、僕のノートと比べ合いを始めた。僕も彼が書いた数式を眺める。答えはどちらも「B」。正解みたいだ。


「良かった。正解だな」

「そうだね。今日、当てられるかもだから良かった」

「あの先生、ランダムに当てるから怖いよな」

「ふふ。そうだね」


 他愛も無い話をしているうちにホームルームが始まった。そして休む間もなく授業が始まる。

 結局、僕たちは当てられることなく授業を終えることが出来た。チャイムが鳴って、起立、礼をしてから彼はまた僕の方を振り返った。


「答え、正解で良かったな!」

「うん。当てられなかったけどね」

「そうそう。自信ある時に限ってなー。あ、次体育だ! 早く着替えようぜ!」

「そうだね」


 女子と違って男子には更衣室というものが与えられない。だから教室で着替えることになる。僕はブレザーとセーターを脱いだ。そして、シャツのボタンに手をかける。そんな僕の様子を、ミズキは何故かじっと見ていた。


「……どうしたの?」

「いや、お前って色白いよな……」

「ああ、帰宅部だし」

「いや、それ俺もだし」


 好きな人からの視線は緊張する。

 僕は何も気にしていませんよ、という顔を作って着替えを続けた。シャツを脱いで体操着を着る。

 ぱちり、とミズキと目が合った。彼はまだブレザーをのろのろと脱いでいる最中だった。

「ミズキ。早くしないと遅れるよ」

「ああ、うん」


 彼も急いで着ているものを脱いで体操着を見に着けた。僕と違ってミズキは健康的な身体の色をしている。格好良いなって思う。


「なあ……大学ってどこ狙ってる?」

「……どうしたの急に。R大だけど?」

「そっか! じゃあ、ふたりで合格すれば、また近い席に座れるかもだな!」

「……ふふ。なにそれ」


 そっか。ミズキもR大受けるんだ。

 じゃあ、もうちょっと片思い続けられるのかな……。

 同じ大学だったら、一緒に通ったり帰ったり出来る。嬉しいな。


「……受かったら、ちゃんと言うから」

「えっ? 何を?」

「別に。よっしゃ、グラウンドまで競争!」

「あ、待ってよ!」


 教室を飛び出したミズキの背中を僕は必死に追った。

 何だろう。言いたいことって。

 僕は疑問に思いながらも、頭を体育の授業に切り替えた。今日は、短距離走か。外は寒いけど身体があたたまるから良い。

 季節は春、桜の花弁がグラウンドを染めている。


「ミズキ、待ってよ!」


 僕は笑いながら桜の下を走った。

 楽しい時間、ずっと続いていきますように。そう願いながら。


 

 月日は流れて、僕たちは無事、同じ大学に合格した。

 そして……ミズキに告白された。ずっと、僕のことが好きだったんだって。

 同じクラスになって三年目。

 片思いして三年目。

 僕の恋が実った瞬間だった。

 これからは三年、いや、もっと長い関係を続けていこうね。

 僕は、ミズキの胸に飛び込んでそう心から願った。

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三年目の片思い 水鳥ざくろ @za-c0

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