ナイス、シュート!
維 黎
意外と難しいねん
事の始まりはおかんの一言だった。
「いくで。見ててみ――ほら、うまいやろ!」
勝ち誇ったような満面の笑みは、今でもはっきりと覚えている。その笑顔になぜか対抗心がむくむくと頭をもたげたことも。
高速を使えば車で1時間はかからない。地道を使えば1時間40分ほど。電車で行けば、これも1時間かかるか、かからないか程度の距離に実家がある。
帰るのは3、4ヶ月に一度くらい。この
『だからなに?』とか『ふーん』とかの答えが返ってきそうだけど、何が言いたいかといえば、紙くずを端から端まで投げるとなると、けっこう遠い距離だ――ということ。
これまた『知らんがな』とか『だから結論、
DKの端の壁から、反対側のガラス戸の床に置いてあるゴミ箱まで、紙くずを投げ入れるって話。
モノは何だったかな? え~と、確か実家の近所のスーパーのチラシかなんかだったと思う。
で、冒頭2行目のおかんのセリフから、わかってもらえると思うけど、要するにおかんがチラシを丸めてゴミ箱に投げて、一発で入ったわけで。
やってみるとこれがなかなか難しい。
やる前は簡単だと思った。ゴミ箱は生ゴミとかも入れるから、まぁまぁ大きめ。中学の頃はバスケ部に入ってたし。ほぼ幽霊部員だったけど。
壁の端まで行くと食事をするテーブルがゴミ箱を見えなくする。
一投目を投げてわかったことだけど、けっこうぎゅっと握って堅くしないと、軽く丸めた紙くずは、軽くてそこそこ空気抵抗を受けるので思ったより飛ばない。つまりは一発で入らなかった。
「――ざんねん」
と、
ここで
食事をするテーブルとは別に、壁側には元コタツのテーブルがあって、わざわざ壁際まで行くのはちょっとめんどいし、必要もない。
でも、こちらとしては同じ距離で入っても、おかんを上回ったことにはならないわけで。
次はしっかりと丸めて堅くしてからの第2投。
勢いがつきすぎて、ガラス戸に当たって反発し、ゴミ箱の前に落ちた。カーテンを閉めてたら、クッションになって入ってたかもしれない。
三度目の挑戦はしなかった。
何度もやればそのうち入るけど、それは何と言うか妙なプライドが沸いて許せなかった。
月日は流れ――
ゴミ箱の位置を確認して
しっかりと堅くチラシを丸めて、さっき見たゴミ箱の位置をイメージする。
おかんが一発で入れたあの時から、自分の中で決めたルール。年一回だけの一発チャレンジ。
今年で
「――あんた、何やってんの?」
外野の声を無視しての1投。
「――あぁ、くそっ! おかんが話しかけるから!!」
「知らんがな」
来年こそは必ず――!!
――了――
ナイス、シュート! 維 黎 @yuirei
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