第3話 泣き虫はどうすれば治りますか?3

 シズク駅の傍にあるたい焼き屋は町では有名だった。というのも、2085年の現代では食品を作るのもほとんどロボットがやっていたが、この店は珍しく人間が手作りでたい焼きを焼いていたからだ。


 私とティアにとっては学校帰りにこの店に寄り道して行くのが、高校生活の楽しみの一つだった。


「そういえばボク達が初めて話した時、たい焼きは頭から食べるか、尻尾から食べるかで盛り上がったっけ?」


「あそこでティアが私と同じ『頭から食べる派』でなかったら、友達にはならなかったでしょうね…」


「え、そうなの? そんなことで『友達』か『他人』かが決まるの?」


「『友達』か『敵』かだよ」


「なんでたい焼きひとつで争いが起きるの!? よかった『頭から食べる派』で……」


 その後も私達はなんてことのない会話を楽み、気がつけば日が落ちてきていた。



そろそろ帰ろうかと言い出したその時事件は起きた。


 突然激しい爆発音がして振り向くと、駅前の広場にあった噴水が吹っ飛んでいた。辺りにいた人間は悲鳴をあげ、みんなパニックになってしまった。


「いきなり何が起こったんだ……」


「ルイ! アレを見て!」


 ティアは駅の屋根の方向を指さした。そこには銃を持ったヒューマノイドがいた。


「エビルマシンだ!」


 本来ロボットは人間の生活を豊かにするため使役されるため生まれた存在だが、自分の意思で人間に逆らうロボット達がいた。それがエビルマシンなのである。


「俺は戦闘型ヒューマノイドのネイル! お前達人間を抹殺するため五指ごしに遣わされたエビルマシンだ!」


 ヒューマノイドは銃を乱射し始めた。弾丸が辺りの建物を破壊してそこらじゅうで爆発がおきる。


 人々は悲鳴をあげて逃げ惑う。


「まずい! 私達もここから逃げないと……!」


 逃げようとした瞬間だった。乱射された弾丸が近くのビルを破壊し瓦礫が頭上から降ってきた。


「まずい!」


 逃げる間もなかった。容赦なく降り注ぐコンクリートの塊は一瞬ですぐそこまで迫ってきた。


 圧倒的な恐怖と諦めを感じたその刹那、視界は光に包まれ何も見えなくなった。


 目を開けると、球状に張られたバリアによって私は守られていた。


「ティア……!?」


「安心して。ボクがバリアで防いだ」


 当たり前のような顔でバリアを展開しているティアに面食らい言葉が出なかった。


 ティアは冷静な表情で瓦礫を弾きバリアを解除した。


「ティア、その力は……いや、今はそれどころじゃない! 逃げるよ!」


 ティアの手を掴み逃げようとするが、何故かティアの手を引くが彼女は動かない。


「ティア……?」


「ルイ、逃げてはダメだ。キミはあいつらと戦って」


「え?何言ってるの?」


「ルイ、キミだけがあいつらと戦えるんだ」


 ティアの真剣な表情がいっそう私を驚かせた。


「戦えるって……相手は銃とかもってるんだよ! 戦えるはずないでしょ!」


「だからボクが力をあげる」


 ティアはカバンから仮面を取り出し、私に手渡した。


「この仮面をつければあいつらを倒せる力が得られる。だからこれで戦って!」


「そんな急に言われても……それに私は泣き虫……力があったところで戦えっこない!」


 すでに私の頬は涙で濡れていた。


「大丈夫、仮面をつければ泣きっ面は見られない!」


「そういう問題じゃないでしょ! だいたいこんな仮面つけたところでなにが…」


「うだうだ言ってないで早く行って!」


「ええええええええええええええっ!」


 ティアは私をひっぱたいてエビルマシンの所までふっ飛ばした。私はごろごろと転がり、顔を上げるとエビルマシンと目が合う。


「ん? なんだてめぇ?」


 エビルマシンのネイルに完全にロックオンされてしまった。


 顔面は涙でびしょ濡れだ。いつ失神してもおかしくはない。


「ルイ、早く! 早く仮面を装着して変身して!」


 は!? この土壇場でまだおかしい事言ってんのか!? 変身ってなんだ!?


「ソルジャーに変身するんだ!」


 必死の思いで立ち上がりどうすればこの状況を切り抜けられるか考えたが、自分が生きて帰るビジョンが全く見えなかった。


 ネイルとの距離は10メートルほど……自慢の走りで逃げたところで、必ず撃ち殺される。


「わかったよティア……」


 半ばヤケクソに仮面を顔にあててみる。


「どうせ死ぬなら、友達を信じてみる」


 仮面を顔に装着すると涙が仮面に吸い込まれ、光を伴い何かが起動し始めた。


「やっぱり、ルイには適正があったんだ!」


「ティア、これは!?」


「ルイ、勝つまで泣き止んじゃだめだよ!」


 仮面から出た光は私の全身を包み込んだ。


 光からあたたかな力が身体に流れ込んできて、光が晴れたとき私は黒いスーツを纏っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る