私は勝つまで泣き止まない

nao

第1話 泣き虫はどうすれば治りますか?1

 廊下に散らばった花瓶の破片の輪郭が歪んではぼやける。恐らく血管の浮き上がっているであろう父さんの顔を、この熱い目で見たらどんな形になるのだろう? そんな疑問がよぎったが、私は相変わらず俯いたままだった。


 最初は私が花瓶をうっかり割った件で説教をくらっていたハズだったが、いつの間にか話の内容はすり替わっていた。


「ルイ!だいたいお前はなんでそんなに泣き虫なんだ!? 女だからって、そんなにメソメソしてちゃ世の中でやっていけんぞ!」


 またこれだ。赤点をとったことがバレた時も、部活に行きたくないとだだをこねた時も、こっそり父のツマミを文字通り摘み食いした時も、説教が始まると必ずこの話になる。


「鍛錬を積めば泣き虫が治るだろうと、小さい頃から空手を習わせ、中高では柔道部に入らせたというのに……遂に治らなんだか」


「しょうがないでしょグズッ……涙が勝手に流れてくるんだから……」


「何がしょうがないだ! 自分の涙に勝手もくそもあるか! 気合いで止めんか!」


 気合いってなんだよ。別に私だって泣きたくて泣いてるわけじゃないんだよ。本当に自分は泣きたくないのに、勝手に涙が流れ出るんだ。


「今日はもういい……だが、いい加減その泣きぐせは治せ。みっともない」


 夜遅くということもあって、父は説教に疲れたようだ。父さんはため息を吐きながら部屋に戻っていった。


 私は割ってしまった花瓶の片付けをした後、本来なら漫画でも読んで寝る予定だったが、それはやめて今日は寝ることにした。


 布団の中に入っても、父さんに言われた言葉は頭に張り付いたままだった。


「涙を止めるスイッチとかないかなぁ……」


 神凪ルイはそんなことを思いながら眠った。

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