第17話 動き出す王女達


 ◆◆◆◆◆◆カノン目線


「……遅い。リュート、絶対シコってる」


 私は腕時計を気にしながら辺りを見渡す。

 そろそろ二限目が終わって、生徒達が食堂に集まりだした。

 それを耳で感じながら、ゆっくりと立ち上がろうと椅子を下げる。


「うわっ、江夏さんだ」


 その声を聞くと、私はグイッと振り返る。

 今日はなんだかイライラする。

 それは、きっと私の体調が最悪の頂点だからだと思う。


「……誰? あなた」


 苛立ちすぎて王女モードで話しかけてしまう。

 私が言うことじゃないけど、帝国を収めるにふさわしい貫禄、器を感じさせたと思う。

 この王女モードで千人の軍勢を黙らせたことあるんだから、二人相手なんかじゃビビリ上がって声も出せないわよ。


「い、いや、なんでもないです……」


 なんてひょろ長い子。

 リュートの足元にも及ばないわね。


「あっそ、で、なんで『うわっ』って言ったの? 何かしら理由があるのよね? 顔がそう言ってるわ」


 丸刈りの男と金髪ピアスの男は、顔を見合わせながら、ゆっくり頷く。


「いや、さっきトイレ前でですね……」


 ◆◆◆◆◆◆リュート目線


 旧焼却場。


 ここは、大学から見れば完全な死角となり、誰からも行動はバレない。

 俺とアイネは恋人繋ぎで、旧焼却場のさらに奥に歩いていく。


「……あるせすすてろねる……!」


 ぴっと右手で線を引くと、緑色の結界が身体中を覆って、現実の空間から脱落する。


「……さぁ、いいよ。出して?」


 アイネは、ぼん! と目の前に例の瓶を出して、蓋をあける。


 その瓶の底は、あるはずの定量よりもさらに深い空間を作っていた。中には、ピンク色のものがピクピクと動いていた。


 ぱく、ぱく、ぱく。


 暖かい空気が瓶へ流れ込むと、瓶の表面が曇る。


「さあ早く……ふぅん……」


 アイネは、顔を赤くすると、息が急に荒くなる。


「……どうなってるんだ、コレ?」


「……これ、私の中。繋がってるの」


 息を吸ったり吐いたりを繰り返す。

 だんだん足がガクガクと揺れ出すアイネを見ながら、俺は彼女の髪を撫でた。


「リュート君……ありがとう……」


 アイネは、俺に頭を撫でられると、少しだけにこりと笑う。


「ねぇ、アイネ。おかず」


「……え?」


「アイネ、おかず。おかずだよ」


「……昼ごはん?」


「いや、エロいものがないと出ないよ」


 俺は、至極真っ当な事を幼気な少女にぶつける。

 その声を聞くと、アイネはブルブルと震え出して、足をガクガクさせる。


「そんなこと……言ったって」


 びく、びく。


「……ねぇ、おっぱい触ったら出るかも」


「……?!」


 青髪の子鹿は、もう腰が引けて立っていられなくなる。


 がく、がく。


 俺はそんなアイネの目の前で、胸を差し出すのを待ち望む。


「……限界、早く……触って、出して……!」


「うん」


 すると、俺は間髪入れずに、アイネの右胸を揉みしだく。


「ひゃん!!」


 声を漏らしながらヨダレを垂らすアイネ。


 すると、アイネはついに腰を地面につける。


「ちょ……まって……ふぅぅ」


 プルプルと震えるアイネ。

 可愛いなぁ。


「まって、アイネ。もう少しだから」


「私……もう。ねぇ……」


 プルプルと震えるアイネ。

 可愛いなぁ。


「あー、もうちょい」


「ううん! まってっ……! リュート君!」


 プルプルと震えるアイネ。

 可愛いなぁ。


「あーそろそろ」


「ちょっと! あっ! あっ! あっぁ!」


 プルプルと震えるアイネ。

 可愛いなぁ。


 ピュルピュルっ!!!!


 アイネは瓶を投げ捨てた。

 空中に飛んでいく瓶からは、出るはずのない湧き水がこんこんと湧き出てきた。

 まもなく草むらの中にそれが投げ込まれると、草木は水分を吸収して喜んだ。


 やった! 久しぶりの洪水だ! と。


 アイネは、2、3秒だけ俺を見つめると、その場で倒れこむ。

 彼女は息を荒げながら、ニヤニヤと止まったままの外の空間を眺める。


 ぴく、ぴく。


 一方、俺は倒れこむアイネを眺めながら、ゆっくりとチャックを閉めた。


「出したばっかだから無理だ、ごめん」


「そ、そんな……」


 地面と一体化したアイネは、少しだけ涙で顔を濡らす。


「ねぇ、アイネ。そろそろ脱がせていい?」


「……うん、いいよ。でも、瓶を収めないと、瓶がまだ中に入ってる」


「……無理、口でいいよ」


「え……!」


 俺はもう一度チャックに手をかけながらアイネに近寄る。


「ちょ……口なんて……私、エッチしたいんじゃなくて!」


「いいよ、俺が教えてやるから」


「……!」


 そして、チャックの中に手を突っ込んで、俺はニヤリと笑う。


 すると、大きな音を立てて空間が歪み始める!


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 緑色のガラスが目の前に落ちて行く。

 俺はそれをぼんやり眺めていると、そこから大きな真っ黒い手が入ってくる。


「...んだよ、いいところなのに」


 俺は怪物を眺めながら呟く。


「……バレた」


 アイネはふらふらと立ち上がると、瓶の方に走っていく。


「あ、ちょっとまてよ、アイネ。ここまで連れてきたくせに逃げんのかよ」


「……ばいばい、また一緒にしようね」


 そして、アイネはブツブツと呪文を唱えると、地面がとろりと溶けて行く。

 彼女はその地面に沈んで消えていった。


「んだよ、つまんね」


 あれ、そういえば俺はこれからどうすればいいんだ?

 アイネとエッチしなきゃならないことしか頭に浮かべられないんだが。


 と、思った矢先、空間が崩れ始める。

 ガラスが辺りに降り注ぐ。


「うがぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 轟音と凄まじい哮りで現れたのは、怪人と化した赤髪の少女!


 緑色の結界が崩落して、外で鳥が飛んでいるのが見える。


「どこに逃げようが、私のものよ、リュート君!!」


 そして、バラバラに砕けた結界の割れ目から侵入して降ってくる。


 地面を穿ちながら両足をつくと、ガリガリと牙を鳴らす。


 そのツインテール、そして声と赤髪、もしかしてあれってテルなのか??


 赤髪の女の子は、黒いベトベトした体液で体が艶やかに輝く。

 白目を剥きながら俺の真横を通ると、地面に向けて魔法陣を描く。


「リュート君に不純なことをしたお前は殺す!! 出てこい淫乱女!!」


 魔法陣が完成して赤く光りだすと、そこから引きずり出されたかのように逆さになった土まみれのアイネが出てくる。


「あ……やばい」


 アイネを見ると白目のテルは、大きく息を吸い込んで青髪の少女に向けて吐き出した。


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「あ、本当にやらっ」


 カッ


 パシュッ。


 シュン。


 テルから放たれた一筋の光。

 空は割れて、山は乖離し、月をかすめて太陽へ向かう。


 そして、俺に届いた轟音と風圧。


 その影響により、辺り周辺が一気に溶け出し、熱に囲まれた世界が唸りをあげながら激怒した。


 いわゆるスーパープルームだ。

 火山が噴火して、地鳴りを起こし、数多の命を一瞬で炭素に変えた。


 山は天高く突き出し、海が空から降ってくる。

 大地が狂って、全てビームの光を追うように吸い込まれて行く。


 それに耐えきれなくなった空間全てが世界から追放された。


 もちろん、アイネも含め。


 つづく。

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