第15話 東の王女


「じゃ、私は今から授業に行くから。ねぇ、カノン。絶対に私がいないところでエッチしちゃダメだからね?」


「しないわよ、どこですんのよ学校で」


 そう言って奥の方に走って行くテル。

 赤髪がなびく、美しい少女だ。

 ふわっと甘い香りが漂うと、男たちはみんな振り返る。


 テルって黙ってりゃ、絶対にモテると思うんだが……。


 びぃえええええ!


 と、また奥の方で事故ったのか泣き声が聞こえる。

 ……ほっとこ。

 どうせ、すぐ泣き止むだろう。


「さぁ、あと2時間。どうやって時間潰すの?」


「まぁ、適当に食堂で座ってりゃいいだろ」


「……。女の子と一緒に過ごす場所が食堂だなんて、あなた本当にデリカシーがないのね」


「大丈夫だ、俺はもうカノンのことを女とは思ってない」


 あ、いつもの拳が来る。

 こんなやり取りが苦だと思っていたのが嘘みたいだ。

 今は笑い合いながら過ごせてる。

 なんだろう、今までと何が違うんだろうか?


 優しくなれる気がする。


「いいわ、食堂で過ごしましょう。図書館とかに行ったら結界張りづらいし」


「じゃ、行くか」


 俺とカノンの歩き出す歩幅があって来ている。

 少しずつだけど、カノンとの距離が縮まっている。

 肩を並べて歩く姿は、どこか嫉妬させる、ラブラブなカップルのそれだった。

 窓ガラスに映る俺たち。

 俺は少しだけ胸が高鳴った。


 ふと、カノンの方を見る。


「おっ、頭になんかついてないか?」


「え、本当? 取ってちょうだい」


 頭のてっぺんについてる綿ぼこりを取ろうと指を伸ばす。

 あれ、コイツなかなか取れんな。

 よっ!

 あれ、くっついてね?

 取れろ!

 取れろ!


「よし!」


「あ、取れた? どんなの?」


 急に顔を上げたカノンの目の前には、俺の顔が真近くにあった。

 数秒間見つめ合う俺たち。

 時が止まったかのように見つめ合いながら、不意にカノンが視線をそらす。


「……なによ、顔に何かついてたわけ?」


「……いや、なんでもねぇよ」


「馬鹿じゃないの、いや、馬鹿よあなた」


 頭に怒りマークを浮かべるカノンは一歩先に出る。

 気づかないうちに、カノンの顔を見つめていたのか。

 すでに、ベッド内で永劫の時間 カノンの顔を見続けていた。

 もう、これが当たり前なのだと脳が錯覚したのだろう。


 カノンが横にいないってなると、今の俺はどうなるんだろ?


 カノンはどうやら、手鏡を取り出してゴミが付いてないか調べ始めたみたいだ。

 だから、なんも顔についてないっての。


 ◆◆◆◆◆◆カノン目線


「……赤い」


 顔に手を当てると、なんだか蒸気が沸いてるみたい。


 なんなのよこれ。

 なんなのよこれ!


 私、今なにをしにこの次元に来てたんだっけ。

 リュートに会いに来た。

 子供を作りに来た。

 リュートとエッチをするためにここに来た。


 別に、リュートと仲良くするためにここに来たわけじゃない。

 そうよカノン、私はリュートに対してなんの思い入れもないしすぐに家に帰りたい!

 お父様に言われたからあの男に股を開くだけのこと!


 なにを恥じらってるのよ、私!

 簡単なことよ!

 私が全裸になるだけでいい!

 リュートが私に食らいついてくれさえすればすぐに終わる話!


 なのに、なんだかすごく……苦しいわ。


 ◆◆◆◆◆◆リュート目線


 食堂。

 二限目の時間帯のため、まだ人が多いわけではない。

 ガラガラになっていた端っこのカウンター状の席に座ると、カノンが俺の真横に座る。

 俺はすごく違和感を覚えながらカノンを見る。

 こんな、真横に美少女が座るだなんて。


「ねぇ、リュート、今日なんか調子悪いの? テレビみたいに殴ったら治ったりするの?」


「いやっ、なんでもねぇよ」


 お互い、席に着いてボーッとしてると何を話していいのかわからなくなる。

 普段、何話してたっけ?

 王女の話?

 子作りの話?

 ……帰還の話。


「ねぇ、リュート。なんか面白い話をしてよ」


 また、ハードルの高いことを言う。


「そうだな、今カノンの口紅が変なとこについてることとか?」


 わかりやすい冗談で揚げ足を取ってみる。

 可愛い反応してくれたら、なんか奢ってやろうかな。


「え! 嘘でしょ?!」


 カノンは鏡を急いで取り出して顔を確認し始める。


「どこ?! どこよリュート!」


 あまりにも反応が良すぎて、急に胸がムズムズし出す。

 やっべ、こりゃ美味いスイーツでも奢ってやらねば。

 俺の財布の中身、あれを除けば何円入ってたっけ?


「……何にやけてんの?」


「……嘘なのに、そんな血眼になって鏡で顔を見つめるとは思ってなくて……クスクス」


 カノンは落胆の表情で俺を見つめる。


 そろそろ鉄拳が飛んで来るんだろう、肩パンが来る事を想定して右腕だけ硬くしておいた。


 ……が、カノンは何もしてこない。

 目を瞑っていた俺は恐る恐るカノンの方を見てみる。


 こちらを見つめるカノン。

 少しだけピクリと顔が反応する。

 綺麗な化粧に不備なんてどこにもあるわけないのに、なぜそんなに過敏に反応したのか俺にはわからない。


 だが、女が化粧を気にする時って、確か気になる人間が近くにいる時だって誰か言ってたな...。


 すると、カノンは目をうるうるさせて、下を向いた。


「……馬鹿」


 きゅううう!


 それだけ言うと、そっぽを向いてしまった。

 初めて、王女をからかった後に報復が来なかった瞬間である。


 すごく、むず痒い。

 なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!


「トイレ……行ってきます」


「んっ」


 急いで俺はトイレの方に駆け込んだ。

 やばい、もう限界っ!!

 昨日は寝ちまったから出せなかった!

 正直、カノンの寝顔を夜食に何回でもできた!


 トイレの個室に入ると、俺はすぐにズボンと奇しくも履いていたカノンのパンティーを下ろす。


 カノンの表情を思い出す。

 あの少しだけ泣きそうになる顔。

 唇のぷるぷるしたのを見ると、誰しも欲を禁じ得ない。


 ベッドの上に寝そべるカノン。

 大人のオモチャを手にして恥ずかしがるカノン。

 照れて素直じゃなくなるカノン。


 全てが全て、俺の欲を加速させた。


 ……こんなんじゃダメだ、カノンを帰らせるわけにはいかない。


 トイレで目を瞑ると、レバーをぐっと握る。


 可愛いカノン。

 美しいカノン。

 いい匂いのカノン。

 照れるカノン。

 寝顔のカノン。

 振り向くカノン。

 見つめるカノン。

 困った顔のカノン。

 嬉しそうなカノン。

 悲しそうなカノン。


 ……セックスする時のカノン。


 その想像だけで、俺の聖剣は超覚醒した。

 なんども引き抜こうと、引き抜こうと、なんども引き抜いた。


 そうか、カノン。

 俺、もう、後には戻れそうにないよ。


 真っ白になった感情の中に、ひとつだけ答えを導き出した。

 今日の量はいつもの2倍以上だ。

 少しずつ賢者になると、ゆっくりとトイレットペーパーに手を伸ばした。


 カノンにこんな姿、見せられないな……。


 ◆◆◆◆◆◆


 指に少しだけトイレットペーパーが引っ付いていることに気づいて爪でひっかく。

 強くこべりついてしまった紙が取れない。

 俺の接着剤はなかなか高品質の様だ。


 何分もトイレに行ってたら、女子でもさすがに察するだろう。

 走って向かおうと、前足を出した。


「……んっ。来た」


 あれ、あの青い髪の女の子、俺がトイレに入る前にもいたな。


 見つめていると、その女の子は瓶で顔を隠す。


 なんだろ、恥ずかしがり屋なのか?


 まぁいい、俺はその横を通ろうとした。

 その時、何かが服に引っかかる。


 うおっ?


 瓶を持つ女の子が俺の服を引っ張っていたのだ。

 下を向いたまま何も言わない。

 オロオロとしながら瓶を右手に持ったり左に持ち替えたりする。


「あの……どうされました?」


 俺はその不思議な雰囲気に圧倒されながらその女の子を見つめる。

 すると、その女の子は瓶を前に出す。


「はい」


「え?」


「はい……」


「うん、何?」


「……」


 すると、瓶を抱きしめて元に戻る。

 下を向きながら湯気を出す。


 青髪の少女は背が非常に低く、こんまりとした身長にちんまりとした胸。

 テルは中学生って感じだが、この子はどっちかというと小学生って感じだ。

 そして、地面につくんじゃないかってくらい長い髪が現実離れしたお姫様のような印象を俺に与えた。


「えっと……俺に何か用? 言ってくれなきゃわからないと言うか……」


 俺の困った様な声を聞くと、女の子はまた目をうるうるさせる。

 そして、その場で三回転すると、息をふうと吐く。


「行くよ、3、2、1……」


 ぱっと、顔を上げてもう一度俺の前に瓶を差し出す。


「はい」


「うん。それで」


「……ください」


「ん?」


「..……し……くらさい」


「ん? 何?」


 ぷくぅと膨れる青髪の女の子。


 すると、絶頂を迎えたのか、彼女は身震いしながら俺に向けて吠える。


「リュートの精子をこの瓶いっぱいにくらしゃい!!」


 涙を宙に浮かべながら、決死の告白。


「おう……ん。え?」


 つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る