俺は5人の勇者の産みの親!!

快晴

第一章 四人の美少女

第1話 日常+魔法


「リュート!! おっはよ!!」


 俺の彼女、愛しのお姫様・江夏奏音えなつかのんは俺の横にくっ付くように大学の椅子に座る。


 可愛い可愛い大好きな彼女だぁ!!

 ってのは嘘、俺は未だに彼女に対して好意を持ったことはない。

 何故だか知らないが、この女の子は俺と付き合っていると錯覚しているようで、クラスのみんなに『俺とカノンは付き合っている』と言う情報を撒き散らしているようだ。

 何のために……? それは全くわからないのだ。


 露出度が高い服を着て来たカノンは胸元を強調して、柔らかい素肌を俺の素肌に擦り付けるように体を揺らして来やがった。

 誘ってるつもりなのだろうか、下手くそな演技しやがって。


「あ、あの江夏さん。ここがどこだかわかってるかな? もうそろそろ大学の講義始まるんだけど?」


 俺はわざと不快そうな顔でこの子を拒絶するものの、この女は一切気づかない。

 いや、気づいているのに御構い無しって感じだ。


「別にいーじゃん、減るもんじゃないし!!」


「それは男が言う台詞だろ、おいあんま触るな!!」


 俺はプリッとした唇に掌底を食らわせてカノンから逃れようとするものの、彼女は全く諦めようとせずに俺を陣地へと引きずり込もうと攻め続けてくる。


 はぁ……。


 桜の木は昨日と比べて緑がかっていて、あの美しかった世界は激しく吹き荒れる暴風によって跡形もなく吹き飛んでしまったようだ。

 ちょうど俺が桜、カノンが暴風だ。

 大学生活くらいはまともに過ごそうとクールキャラの練習もしたってのに、カノンがくっ付くせいで周りからかなり敬遠されているように感じる。


 桜の花びらはそんな暴風に晒されていても、間違いなくまだ目に見えるくらいは残っている、故に俺にも希望はある。


 俺は季本龍斗きのもとりゅうと

 高校生活を大失敗し、出来るだけ同級生と会うことを避けるために一時期不登校も経験した反模範的男子だ。

 俺には持病があり、ただでさえ定期検診や手術のせいで学校を公欠したりするだろうから友達は上手くできないディスアドバンテージがあると言うのに、こんな女の奇行が原因で同級生から距離を置かれてしまうなんて……!


 俺は大学で友達を作りたい!

 高校の時のような大失敗をしたくない!


 ……って意気込んで、俺はこの大学に来たのだ。

 この大学の近くには、俺の隠し持つ難病を治すことが出来るだろう技術を持つ医者がいるそうだ。

 だからこの大学に通うことにしたのだが、どうもこの大学は俺の頭脳レベルには合わないらしい。

 だって記念する大学生活の一時限目が因数分解の授業なんだぞ?

 因数分解なんて、中学生の時にマスターしたさ。

 本当は東大とか俺のレベルに見合う学校に行きたかったのだが、東京から難病を直してくれる医者の病院に通うには時間も移動費もかかる。

 よって、俺は妥協してこの大学に訪れたのだが……。


 もう俺の話はいい、思い出したくないことが脳に刺さって気分を害するだけだ。

 俺は結局、この女を無視して窓の向こうに映る世界を眺めて溜息をつくことにした。


 頭の中でこの美しくて切なげな風景を詩にしてみようと目を瞑るが、きゃいきゃいとうるさい少女が俺の腕を引っ張って離さない。


 ……こいつさえ横に来なければ、さらに感傷的な思考に落ち着く事が出来たのに。


「なぁ、江夏さん。あまり近づかないでくれないか? 周りの目を気にすることもできないのか?」


 俺は真剣な表情を見せ、怒りのトーンで叱りつけるが、彼女は一切動じない。


 鋼の根性を持った黒髪の少女は、これでもかと俺の体を触りまくる。


「いやーん、この引き締まった体! かっこいいわぁ!」


「おい! 来んなっつったろバカ野郎!」


 俺はカノンの顔を掴むと、グリグリと掌底を押し付ける。


「ねえリュート!! キスしましょー!!」


「お、馬鹿やめろ!」


 彼女の顔は俺の手で崩壊寸前ながらも、それでもキスをしたがって離れない。


 すると俺の後ろでドカンとカバンを置く音がして、びくりと体を浮かせて首をそちらの方向に向けた。


「……ねぇカノン。そんな方法を取って恥ずかしく無いんですの? この場は戦地ですわ。自分のみ思い通りになるとお思いですの?」


 そう言って、俺の目の前に現れた金の長髪の少女はカノンをじっと睨みつけた。

 口を歪ませて一切笑みを見せない金髪の子はゴスロリの服を着てて、まさに漫画とかで出てくるお嬢様のような姿だ。

 目の色が赤いのを見た感じ、この子はほぼ100%日本人では無いのだろう。

 それか、ちょっと痛めなコスプレイヤーだ。

 っていうか、大学にそんな服着てくる奴なんているのかよ!


「……いいでしょ、これは仕方がないことなのよ。戦略も戦力のうちよ。先手必勝、この日本って国はなかなか面白いコトワザってのがあってね。ま、そういうことだから」


 とコスプレイヤーに告げたカノンは俺の手を引っ張って教室の外へと連れて行こうとした。

 先手必勝ってのは四字熟語だろうが、馬鹿が露呈してるぞ?


「ちょっとカノン! 私の話聞いてましたの?! そういうところが卑怯だって言ってるんですの! 正々堂々とリュート様を取り合うのがルールだと言っていたでしょう!! 大衆の支持を得て奪い取るだなんて規則違反ですわ!!」


「馬鹿ねアリア! そんなちんたらしてる暇なんてないのよ! リュートは私の彼氏になったの! あなたが私たちの間に介入する余地なんてないわ! 勝負あったわね!!」


 そう言ってカノンは後ろを振り向いて舌をベェっと出した。

 真っピンクな舌をペロリとさせたカノン、少しだけ可愛いなと思ったけど、今はそんなことどうでもいい!!


「お、おい待てよ! 何度も言うが、俺とお前は付き合ってない!! あと、これから授業が始まるのにどこに行く気だよ?!」


「決まってるでしょ! アリアから逃げるのよ! あの子の魔法はめんどくさいから!!」


「は、はぁ? 魔法って言ったのか今!!」


「そ、魔法!! あとで説明するからあいつから離れるわよ!」


 俺はカノンから体を引っ張られるがまま歩いていく、がしかし、俺はさらに後ろから思い切り引っ張られる!!


「うぉっ!?」


 何かに足が引っかかる、しかし自分の左足を見ても何も引っかかっている様子はなかった。


「どうしたのよリュート? 早く行くわよ!」


「イタタ! 引っ張るな! 足に何か引っかかってんだよ!!」


 俺は足を掴まれているように感じてふと後ろを振り返るが、例の金髪の女の子は追いかけてくる素振は一切なさそうだ。

 しかし、彼女は間違いなく俺の足を眺めている。

 そして彼女は口元を手で隠して体を二回振った。


「……リュート様? 私の方がカノンよりも気持ちよくして差し上げられますわよ? あと、その女はあなたに嘘をついてるんですのよ?」


「う、嘘……?」


 俺は金髪の女の子がそう言うから、カノンに事情を聞こうと振り返る。

 が、そこにはカノンはいなかった。


「……ん?」


 俺が見たもの、ピンク色の布が花のように咲き、二つの太ももの付け根に可愛らしい水色の布があり、そしてキュッと何かが食い込んで二つのお肉の形が……!


「ぱ、ぱんつ……!」


「伏せなさい、リュート!!」


 カノンは俺にそう叫び、俺の体を思いっきり蹴りやがった!!


「っっ!!」


 カノンの足が俺を蹴り上げた瞬間、俺の体は教室の入り口へと吹き飛んでいく!


 そしてカノンはパンツ丸見えの状態で空を飛び、右腕に見えないほどに眩い光を蓄えた!!


「か、カノン?!」


 金髪の少女は顔を歪め、天井へと向かうカノンを見上げる!


「純銀ブレードよ、出て来い!!」


 カノンの手が光だし、そして何処からともなくサーベル型のキラキラした金属の塊が現れたのだ!!


 ま、魔法だ!!


「とりゃぁぁぁぁ!!」


 カノンは天井に足をついた瞬間、天井を蹴り上げて地面に向けて飛び上がる!

 そしてカノンは足を広げて体を一回転させると、地面は砕け散って教室にコンクリートが飛び散ったのだ!!


「きゃぁぁぁ!」


 カノンが地面に降りた瞬間、轟音とともに悲鳴が教室に鳴り響いた。


「ちょ、カノン!! そこまでしなくてもいいでしょう! 一般人を巻き込むのも規則違反ですのよ?!」


「あんただって人前で魔法を使ったでしょ! お互い様よ、アリア!!」


 そう言ってカノンは純銀ブレードと呼ばれる剣を振り回しながら俺の方へと走ってくる!!


「おい、やめろこっちに来んな!!」


「何言ってんの! アリアから逃げるわよ!」


 カノンは俺の方に走ってくると、彼女は俺の手を掴んで再び教室の外へ出ようとドアを開けた!


「じゃ、アリア! 一般人の記憶を消す魔法、よろしくね!」


「ちょっと! そんなことしたら私の魔力が無くなっちゃいますわ! あなたの方がそう言う魔法はお手の物でしょう!」


「嫌よ、記憶を消す魔法は魔力消費が激しいんだから! あ、そう言えば魔力無くなっちゃったら追跡も出来ないわよねー」


 カノンはそう言ってニヤリと笑う。

『やってやったわよ』、そんなドヤ顔だろうか。


「あ! もしかしてこんなに派手に壊したのって策略ですの?! どこまでズル賢い女の子なのかしらっ!!」


「ふん、闇雲に血線を飛ばして来たアリアが悪いのよ!」


 そう言って、カノンは俺を引っ張って教室の外へと出た。


 辺りから聞こえる悲鳴が俺の鼓膜を心地良く打ち、ガラガラと壊れるコンクリートの音と共に、日常がボロボロと崩れていく音を聞いた。


「カノン、お前って何者なんだ?」


 俺は呆然としながらカノンに着いていくだけになってしまっていた。

 もう何も考えたくなかった。

 魔法、女の子、金髪、パンツ、ワレメ。


 そして、カノンはサーベルを振りながら俺に笑いながらこう行った。








「私はカノン。君の彼女だよ」


 つづく。

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