初回車検

34

「よし、あとは拭きあげるだけだな」

洗車場の水をかけるコーナーから拭きあげのコーナーへバックで車両を移動させ、バケツ、スポンジ、セームをトランクルームから取り出し、腕をまくる。

まずはバケツに水をため、セームを濡らし、絞るとフロントから拭きあげを開始する。


車を変えて三年。二週間程前に初回の車検を受け、そのときに洗車もしてもらってはいたが、雨が降ったりしたこともあるし、なにより明日のデートに向けてきれいにしておきたい。


「うん、キズとかはないな」


この車に変えてから事故を起こした覚えはないにしろ、どこかを擦られている可能性はある。洗車というのは車をもう一度見つめ直す機会をくれる。


拭きあげはフロントが終わり、助手席側に移る。ミラーのところも忘れずに拭かないと水滴がたれてきて汚れる原因になる。そうだ、あとで撥水のやつを塗っておこう。


ものすごく個人的な話になるが、洗車のときついエアロパーツをしっかり拭いてしまう。もちろんメッキパーツもだ。そういうところをしっかり拭きあげるからこそ車が輝いて見えると思っている。

そうそう、ホイールも忘れてはいけない。せっかくのアルミホイールなんだから輝かせておかなければ。タイヤもだ。土のところを走って薄く茶色になったままだと非常にもったいない。タイヤをきれいな黒にするスプレーもつけておこう。

そうだ、下回りはどうなっていただろうか...。普段見えないところとはいえ錆びていたり、パーツが少しずれたりしただけでも異音のもとになる。あとで軽くジャッキアップしてのぞきこんでおくか。


ヤバイヤバイ落ち着こう。

本気出しすぎて車のドアが家の洗面所についている鏡よりきれいになってる。

まあ洗面所の鏡の方の掃除さぼってるだけだけど。...一応帰ったら拭いとくか。


バケツをもって助手席側からリアへと向かう。リアには車種やメーカーを示すロゴだったり、装飾などにメッキが多くある。これは力を入れてやらなければ。うーん、リアもなかなかいい顔してる。


それにしてもやっぱりいい。自分の乗っている車をべた褒めするのもどうかと思うがいい車だ。コンパクトながらスポーツモデルならではのエアロパーツに赤いライン、さらにサスペンションもスポーツタイプ。三年たってもまだ色褪せていない。きっと、これからもそうだろう。

ずっとこいつと一緒に走ろう。何年でも、何十年でも、何百年でも。重量税がなんだ。そんなのいくらでもくれてやる。もうずっとこいつと...


ん?


そういえば前にもこんなこと思ったような...


いつだったか...納車直後...いや...


あ、


そうだ、思い出した。


前に乗っていた車の初回の車検のあとにもそんなこと思ったんだっけか。前の車が初めての自分の車だったなあ...。あれもいい車だった...。

...なんとも変わらないもんだ。車好きとはこうやって生きていくものなのかもしれないな。まあ、彼女には絶対こんなこと言えないな。好みがころころ変わるなんて想われたら大変だ。



...でも、こいつとなら...?



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