華凛の力は悪魔のパワー

けろよん

第一章 悪魔のいる町

第1話 悪魔のいる町

 この町では昔から悪魔が現れると伝えられている。

 悪魔達はかつては脅威とも言える力を振るい、歴史に語られるほどの大災厄を起こした強大な大悪魔もいたらしいが、人々が対抗して腕を磨いて活躍してきた結果、今ではその被害はかなり沈静化の様相を見せてきていた。

 今では悪魔の出現はたまにニュースで見る程度だ。悪魔が現れたので警察が退魔装備を使って撃退したと。まるで熊が現れたから撃退したぐらいの余裕のある感じで。

 かつてほどの恐ろしい脅威ではなくなったが、それでも悪魔が人々の安心の暮らしに害を為す存在であることに変わりはない。

 快く思う人間は蠅や害獣を快く思う人間が少ないのと同様、少なかった。



 小高い丘の上に建つちょっとしたお金持ちぐらいの規模の屋敷の食堂でテーブルについてパンを食べながら、黒野華凛(くろの かりん)は朝から昨日悪魔が現れたから警察が出動して退治したといったニュースを見ていた。

 華凛は町の上流階級が通うお嬢様学校の生徒だ。彼女の年はまだ小学校に通う年齢で綺麗でおしとやかな印象を与える容姿をしているが、周りからはぼんやりしていると思われている。

 その周りからの評価通りに彼女が朝から物静かにパンをもぐもぐと食べながらテレビを見ていると、一緒のテーブルで朝食を取っていた両親が話しかけてきた。


「また悪魔が暴れたのか。人間には迷惑を掛けるな」

「その力を良い事に使ってくれればわたしもご近所に自慢出来るのに。まったく迷惑な話だわ」


 両親がこんなことを話すのには理由があった。それは父が実は悪魔だからだ。母は父がそれと知りながら惚れて結婚した。悪魔の力で助けられて、その姿がとてもかっこよかったらしい。以前に聞いた時にそう言っていた。

 母としてはよその悪魔にも父のような活躍を期待したいのだろう。そうなれば自分の旦那を自慢できる、良い話す話題が出来ると。

 だが、現実は世間に伝えられている通りだ。悪魔は被害を撒き散らす迷惑な存在で、彼らに都合の良い活躍は期待出来ない。悪いことをするから悪魔と呼ばれているのだから。

 華凛が知るところによれば、父の先祖はとても強い大悪魔だったらしい。父は先祖は凄くても自分の力はたいしたことがないと謙遜していたが。母にとってはヒーローらしく、褒められて照れていた。

 そんな父が黙ってコーヒーを啜る華凛に言ってくる。


「お前は自分が悪魔の血を引いているなんて外で言っちゃ駄目だぞ。どんな事件に巻き込まれるか分からないからな」

「うん」

「こんな時代が早く終わって、悪魔がみんなのために活躍できる時代が来ると良いのにね」

「そうだね」


 華凛は小学生の子供らしく素直に頷き、朝食を食べ終わって制服に着替えて身だしなみを整え、鞄を持って学校に行こうとする。

 だが、その前にテレビが緊急速報を伝えてきて出ようとしたその足を止めた。


『たった今入ってきたニュースです。男が人質を取って建物に立てこもりました。彼は悪魔の力を持っていて、人間に服従と金品を要求しています』


 そのニュースを見て両親は揃ってため息を吐いた。


「また悪魔の肩身が狭くなるな」

「ああいう人がいるせいでうちまでいい迷惑だわ」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「あの犯行の現場は遠くだけど、一応気を付けて行ってくるのよ」

「はい」


 華凛は素直に答えて外に出ていく。親にはああ言ったが、彼女には親に隠していることがあった。


「あんな人がいるせいで父さんも母さんも困ってる。わたしが片付けて来なくちゃ」


 華凛が体に力を入れると、その背に悪魔の翼が広がった。そのまま軽く跳躍して飛び立つ。青い空はすぐに近くになり、町が遠くまで見えるようになった。

 誰も邪魔する者のいない高所で、風に髪を靡かせる少女。その涼やかな瞳が悪魔の視力を発揮する。

 華凛が隠しているのは自分が悪魔の力に目覚めたことだった。それも能力が隔世して伝わったのか、先祖の大悪魔の力を受け継いでいた。

 華凛が自身の内に宿る悪魔の力を自覚できるようになったのはつい最近のことだった。

 最初はどうしていいか分からず困惑したが、自分の力だ。扱うのはそう難しいことではなかった。

 華凛には悪魔としての才能があった。だが、両親に迷惑を掛けたくなかったので、誰かに自慢したり見せびらかすことはしなかった。

 自分の悪魔としての行動は誰にも知られずに密かに行わなければならない。そう決意していた。


「犯行の現場は向こうの方か」


 華凛は高位の悪魔の力でそれを感じ取り、黒い悪魔の翼を振ってその場所へと高速で向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る