眠れぬ世界のフォークロア
Sanaghi
—— Folklore ——
「あ」
と、私は思わず
——ひっく。
科学的な、話すのも
茶柱が立つと幸運が訪れる。具体的には茶葉を購入してから四日から五日後、製造会社から「幸運」という名の「
嬉しくて、珍しく口笛なんて吹きたい気分になったけれど、今は夜も
——ひっく。
ああ、そう。そうだ。今、何をしているか。私は説明しなければならない。事の
ただ、一つ問題があった。昼の天気はあいにくの
夜更かしが苦手な私だけれども、今夜ばかりは、うたた寝して、「This man」に出会うわけにはいかなかったし、夢電車の中で猿と戯れるわけにもいかなかった。
そこで、私は迷信に
——ひっく。
短針は十二を示そうとしていた。テレビは砂嵐か、気だるい報道番組。砂嵐を見れば安楽死、もう現実に
別に、ニュースが好きというわけではないけれど、現実に飽きてしまったわけでもなかったので、報道番組を見ることにした。「信頼できない語り手」が、一礼をすると、ちらり下へと視線を移す。
——ひっく。
「それでは最初のニュースです。SCP財団エージェントが『ゴミ箱に捨ててしまい
私はお茶を飲みながら、「へえ、見つかったんだ」と一人つぶやいた。誰もいないのに、
「この騒動によるオブジェクトクラスの変更は無いそうです。この騒動について、関係者のS博士は『適切な収容がなされなかったことについては全くもって
——ひっく。
それにしても、あんなにお騒がせなことをしても、あの財団の地位が
——ひっく。
「次のニュースです。全国の書店員が選ぶ、いま一番売りたい本を決める「本屋大賞」。受賞作が決定しました。
ノミネート作品から選ばれたのはウィルフリッド・ヴォイニッチ氏によって発表された『ヴィオニッチ
これについてヴィオニッチ氏は『非常に喜ばしく、名誉あることだと感じている。これを機に、この手稿に記された驚くべき事実を周知にしていきたい』と熱意を持って語りました」
やっぱり、「ヴィオニッチ手稿」だったのね。私はあれを心の中で「あれは大賞を獲るだろうな」と薄々感じていた。内容は知らない。まだ読んでいないからだ。しかし、あれが今年のベストセラーだろうと出版関係者から注目視されていることは、本をあまり読まない私でもよく知っていた。
きっと別の世界線でも、あの本はベストセラーだろう。
——ひっく。
「以上、ニュースの時間でした」
ニュースが終わり、時計の短針と長針は仲良く揃って十二を指した。
アポカリプティックサウンド。七人の天使によって作り出される、不規則で大音量なラッパの響きが、終焉――ただ、これは「世界の」というよりは「一日の」と付けるべきかもしれない――と新たな世界の始まりを
——ひっく。
そろそろ、第四の壁を
——ひっく。
第四の壁といえば。私はほんの一週間ほど前の思い出を回想しながら考える。
「不信の宙づり」って素敵だと思う。
この前、サン・ジェルマンと見に行った映画。彼――もしくは彼女――には伝えなかったけれど、あれはダメだった。映像の隅にカメラマンの影が映っていて。
そこで私は初めて気付いた。ああ、私は映画に入り込めていたのだと。集中と想像力によって、私は映画の世界を
——ひっく。
ねぇ、あなた。つまり、私の言いたい事はこういうことなのよ。創作物には必ず、本質が
隠されているもの、例えば悪意。例えば善意。熱意、プロパガンダ、教訓。そういうものが隠されているに違いない。それを読み取る力が、この物語の世界でも、私が元居た世界でも必要なのだということ。
——ひっく。
ああ、これで九十九回目。そろそろ死が怖くなってきた。この「しゃっくりを百回すると、死ぬ」っていう迷信でさえ、死を
フォークロアは、ただ怖がらせたいだけではない。まあ、この世界は
——ひっく。
これで、百回目。なんとか星に「しゃっくりを止めて」と願いを込めたかったけれど、雨も、しゃっくりも、止まなかった。
せめて、狐が嫁入りしていればよかったのにね。なんて、私は
P.S.
私は不思議なことに。清々しい朝が来た。窓を見ると、スレンダーな彼が手を振り笑っている。私はきょとんとしながらも、手を振り返す。
そういえば、あれからいくら待っても茶葉の製造会社から「御礼金」は私の家に届かなかった。
(了)
眠れぬ世界のフォークロア Sanaghi @gekka_999
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