読書しない感想文 その3
その空の青には終わりがない。
少なくとも二人はそう思っていた。
「ねえ、読書しない感想文 その3の感想だって」
「俺が知るかよ」
「私が知るかよ」
二人はしばらく黙り込む。二人の沈黙の間を白い雲が足早に通り抜けていった。
「そもそも読書しないで感想文を書くなんて読書する作品への冒涜でしかないだろ」
「じゃあ、あなたは読書感想文書けるの?」
「お前は何で書けないんだよ」
少女は少年の真似をするように大きくため息をついた。
「そんなの、書きたいことがいっぱいあるからだよ。それでいて、読み終わったら、結局何が言いたかったのか分からなくなって、どう書けばいいのか分からなくなるの」
「じゃあ、そう書けばいいんじゃないか?」
「難しいよ、そんなの」
少年は大きくため息をついた。
それでいて空は眩しいくらいに輝いている。
「嘘をつけばいいんだよ。思ってもないことを書いて、そうしたら気持ちが溢れなくて済むだろう?」
「そんなの、読書しない感想文と一緒じゃない」
「人間、一体どれほどの人間が自分の気持ちを素直に読書感想文に書き綴っているだろうな。俺は、ああいうのを読むたび嘘で塗り固められていて吐き気しかしなかった」
「そうなんだ」
少し冷たい風が少女の太ももをくすぐった。
「じゃあ、私は、頑張って、自分の気持ちを書いてみるよ。上手く表せないし、全て書けないし、何が書きたいのか分からなくなっても。でも、書いてみようって思った」
少年が嬉しそうに鼻を鳴らしたことに少女は気付かない。
「今日はするのか?」
「ううん。しない」
そうして少女は靴音を鳴らして屋上を去っていく。
後には少年だけが残された。
「そういうとこだぞ。お前のいいところは」
少年の言葉は空の青に溶けて消えていった。
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