MILES

エリー.ファー

MILES

 こんな古い船の中で覇権争いをするのは、非常に面倒なことこの上ないが、私はただ目の前の男を睨んでいた。

 船の甲板には赤い光が伸び、気が付けば夕日となっている。

 船員は確か四十三人いたのだ。

 船に乗る前に、一人何者かに殺されてそれを海へと捨てて出港した。

 気が付けば。

 四十一人が殺しあい、残ったのは、船長である私と副船長の彼だった。

「皆、死んだな。」

「はい、僕たちが殺しましたから。」

「面倒な仲間だった。私を付き従ってくれる最高の仲間だった。」

「はい。」

「ただ、この船内で、ウィルスが舞うとは思ってもいなかった。」

「全くです。ゾンビのようでした。」

「その通りだ。襲われかけて逃げまどい、そして。」

「はい。僕は、そのゾンビに噛まれました。」

「感染していない私を生かすために、今、君が海に向かって飛び込むという選択肢もあるが。」

「僕は船長のことが嫌いです。」

「私もだよ。」

「良かった。」

 副船長が足に絡みつこうとしてきたゾンビの腕を蹴り飛ばし、近くの動きそうもない死体の頭を蹴り砕いた。

 仲間は、この船には乗っていなかった。

「最初の島でダイヤモンドを見つけた際、くすねましたね。」

「それが、呪いの宝石で、今の状況が生まれてしまった。」

「後悔はしていますか。」

「船員が多いと、宝の分配によって人数が減る。これは起こすべき事態だったのだよ。」

「そういう船長の身勝手な考え方が大好きでした。」

 私は手元にある、銃を一つ取り出すとそこに、一発だけ弾丸を込めて回した。

 分かりやすく。

 ロシアンルーレット。

「けりをつけよう。」

 私は先に銃を持つと、自分のこめかみに向けて引き金を引く。

 副船長へと渡す。

「航海とは何だと思う。副船長殿。」

 副船長は自分のこめかみに向けて引き金を引く。

 私へ渡す。

「もう二度と冒険などしないと固く誓うことです。」

 私は引き金を引き。

 副船長へ渡す。

「リスクにリスクを重ねることを冒険者とは言わない。これはあくまでビジネスであり、そして生きるということに他ならない。」

 副船長は引き金を引く。

「この船が二日前に座礁し、既にどこかの実りある島に着いたのに、それでも誰一人として降りず、脱水症状と飢えで死んでいってもですか。」

 私は引き金を引く。

「最早、この船の船員は誰一人としてこの船から降りられない。」

 副船長が引き金を引く。

「出航してから今年で、六千七百十八年と十一ヵ月十六日目です。」

 私は引き金を引く。

「もう、船の外の時間に付いていくこともできない。」

 夕日が赤く照らす副船長と私の顔。

 伸びる影がそのまま船全体を覆うと、周りで死体と化した船員たちが、私と副船長を無視するように酒を浴びるように飲む。

 副船長が引き金を引き。

 銃声が響き。

 私へ渡す。

「船長。この船をいつ降りることができるのですか。」

 私は銃に弾を込め、回すことなくこめかみに向かって引き金を引いた。

 今度はすべてに弾を込めて、こめかみに押し当てて発砲する。

「私たちは、いつでもこの船を降りることができる。しかし、数えればきりがないほどこの船の上で死に続け、最早、生き返る場所もここしかない。どこに降りるつもりかね。」

 船は静かに出航する。

 座礁していたはずであるのに、大きな波にさらわれてまた海面を走って行く。

 向こうには光の多い、にぎやかな豪華客船が見える。

 夕日が落ちる頃には、私たちもあの中で踊っているだろう。

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MILES エリー.ファー @eri-far-

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