【第6話】 苦労人と国王



 ――ホントになんなんだ、この状況。


 死んだ魚のような目をしながらも、冷静になった歩夢は周囲を観察する。


 神殿のような場所。真下には先ほどの魔法陣と似た紋様。そして……


「「「「「オッパイ! オッパイ! オッパイ! オッパイ!」」」」」


 裸踊りをしているジジイと周囲を取り囲む全裸の男たち。

 そう、変態要素を除けば、まるで一か月前の焼きまわしのようなシチュエーションだ。


 つまるところ異世界召喚された世界から、さらに別の世界に召喚されてしまった……?


「え? 嘘でしょ? こんなことありえんの……?」


 異世界召喚だけでもあり得ないのに、それを二度も体験することになるとは。

 歩夢が呆然と呟くと同時に、ジジイの裸踊りもようやく終わりを迎えた。


「パイ! パイ! オッパイパイ! Hey!」

「うわ、目が合ったよ……」


 とっさに視線を逸らすも後の祭り。

 キメのポーズをとったジジイは歩夢をガン見。歓喜した。


「成功じゃ……! 成功じゃああああああ! 皆の者! 儀式は成功したぞぉぉぉぉぉ‼」

「「「「「イヤッハ―――――――――――っ‼」」」」」


 盛り上がる全裸たち。

 ジジイに至っては「わが生涯に悔いなしッ‼」とガッツポーズ。

 股間の“小象”をプラプラ揺らし、小走りで歩夢に近づいてきた。


「よくぞ我らの呼びかけに答えてくださいました、勇者様! ようこそ! 我らが世界へ‼」


 そのセリフだけで自分の予想が当たってしまったことを悟る。


「これで我ら宮廷法術士が宮廷魔術師どもを出し抜くことができます‼ お礼を言いますぞ‼ 勇者様‼ ぐっふっふ……」


 しかも、召喚したのはロクでもない連中だった。

 今のセリフと言い、邪悪な笑い方と言い、なんか陰謀的な臭いがプンプンする。


「つきましては、今後の話を国王陛下の前で行いたいのですが……その前に、なんで縛られてるんですかな? まさか、そういう趣味がおありで?」

「んな訳あるかっ‼」


 未だに簀巻き状態の歩夢を見て小首を傾げるジジイを怒鳴りつける。

 勝手に話を進めるわ、見たくもねぇ汚ねぇもん見せられるわで、ストレスも限界なのだ。

「いいから、早く縄を解いてくれ!」とさらに怒鳴ろうとしたその時だった


「そこまでだ!」


 入り口を乱暴に開けて、全身鎧の集団がなだれ込んできた。


「な!? 近衛騎士団!? なぜここに!?」

「お前たち、両手を上げて投降しろ!」


 剣を突き付けられ、その場にいた裸族たちはホールドアップ。

 当然、股間もフルオープン。


「……訂正! お前たち、股間を両手で隠し投降しろ!」


 あまりの見苦しさにリーダーらしき人物が言いなおす。

 そこからは一方的だった。

 全身武装集団VS全員裸族集団。

 戦いは当然ワンサイドゲームとなり、全裸の男たちは次々に拘束されていく。


「くそ! 放せ! 貴様らワシにこんな事してただで済むと思っているのか!?」

「黙れこのハゲ!」「余計な仕事増やしやがって!」「くたばれ! 老害!」

「ぴぎゃああああああ‼」


 ジジイも抵抗はしたが、多勢に無勢。

 あっという間に無力化され、フルボッコに。


「くそっ! 間に合わなかったか……キミ、大丈夫か!?」

「え? アッ、ハイ」

「しかし、なんて連中だ。自分たちが呼び出しておいて簀巻きにするなんて……! なにもされなかったかね!?」

「アッ、ハイ……」

「混乱しているところすまないが、一緒に来てもらう。詳しい話は国王陛下の口から聞かせてもらった方が、キミもいいだろう?」

「アッ、ハイ……?」


 武装集団――近衛騎士の団長に拘束を解いてもらったのも束の間、今度はこの国の国王の下へと案内される。

 流石に全裸で国王に合わせる訳にはいかないのだろう。

 歩夢を召喚した男たちも、粗末な服を着せられ連行されていく。


「ああああああああああ‼ やめて! 自分で歩ける! 歩けるから! 引きずらないで! 擦れちゃう! 擦れちゃうア―――――――――ッ!」


 唯一ジジイのみ、なにも着せられず、うつぶせの状態でズルズル引きずられていく……

 次第に点々と血痕が通路についていくが……見なかったことにしよう。

 そうこうしているうちに、国王のいる玉座の前へと辿り着いた。


「そう緊張しなくていい。陛下は豪快で気さくなお方だから、礼儀作法は気にしなくてもいいからね」

「そ、そうなんですか?」


 何度目でも慣れないだろう王との対面イベントに緊張している歩夢を気遣いながら騎士団長は扉を開けた。


「陛下! 命令に違反し、勇者召喚を行った法術士団長とその部下数名の連行! 並びに保護した異世界人をお連れしました!」


 凛とした態度で報告する騎士団長に、玉座の国王が労いの言葉をかける。


「がっはっはっは! ご苦労じゃったのう! 騎士団長! 異世界人のキミも面倒かけて悪かったのぉ‼ まぁ、緊張せずリラックスしとけや! がっはっは!」


「…………え? 誰?」

「この国の国王陛下です」

「マジで……?」

「マジです」


 歩夢が疑うのも無理がなかった。

 なんせ、玉座にふんぞり返っているのは柄の悪いそうな筋骨隆々の大男なのだから。

 王様のトレードマークとも言える王冠の代わりにサングラス。

 豪奢な服の代わりにアロハシャツ。

 髭も立派な白いひげではなく、汚らしい無精ひげ。

 どっからどう見ても国王陛下には見えない。

 むしろマフィアの首領ドンとかの方がお似合いである。


「……まさかこの国、山賊に乗っ取られたんですか?」

「誰が山賊じゃい!? 人を見た目で判断すんなや! お母さんから『人を外見で判断しちゃダメ』って教わらんかったんか!?」

「限度があるわ!」


 当初の緊張はどこへやら。

 豪快で気さくと言うより、純粋にチャラい感じの国王に歩夢は無遠慮にツッコミを入れるのであった。

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