第29話:神社と公園にて

 光太のいう神社は学校の近所にあった。


 なぜか『建設中』という立て看板が立てられており、鳥居から拝殿から何から何まで総とっかえしている真っ最中。


「「…………」」

 光太と二人で唖然としていると、作業していたリーネア先生……に激似の成人男性が手を振る。

「あっ、ごめんごめん! いまちゃっちゃと終わらせるからさー!」

「もっと丁重に扱えばかあ!」

「え? 何言ってるんだい、なんか見覚えがあるっぽいちびっこ神。こういうのは勢いと勘が大切なのさ!」

「わたしのおうちを勢いと勘なんかで直さないでー‼︎」

 はしごの上の男性に怒っているのはサチさん。

 男性と対照的に黙々と作業しているのは……鮮やかな金髪の女性。こちらは雰囲気がルピナスさんに似ている。

 サチさんが涙目でこちらに走ってきた。

「うう……来てくれて嬉しいけれど、シェルに頼んだ改修工事がまさかこうなるとは」

「何がダメなの?」

 はしごからぶら下がる男性が不思議そうにしている。髪こそ短髪だけれど、顔立ちと無邪気さが先生そっくりだ。

「魔神黙って! あなたがわたしの土地に変なカラクリ埋めて、さらにはそれをすぽっと忘れてたこと、ほんとならこの場で神罰を与えてもいいくらいだし‼︎」

「ボクに神罰を与えてもダメージいくのシェルだけどねえー?」

「なんっで心底不思議そうなの? 意味わかんないし。あなた神さまなのに」

「神さまなんて意味わからんものだよ」

「サチさーん、お掃除終わりましたよー!」

 建物の中から巫女さん姿の紫織が出てきた瞬間に、光太がぽつりと呟く。

「情報量が増えていく……」

「そうだね……」

 サチさんと魔神さんは言い争いをしながらも神社を修復している。

「私がこうしているだけで力になれるというので、お掃除していました!」

 巫女服にホウキが揃うと、大和撫子な彼女の魅力が際立って可愛い。以前切ってからまた伸びた黒髪を、和紙を撚った紐でまとめている。

「可愛い……写真撮ってもいい?」

「はわっ。京ちゃんと一緒になら……」

「俺撮ろうか?」

「あ、お願いしてもいい?」

 光太にスマホを渡す。

「はい、チーズ」

 シャッター音がして、光太は画面を確認する。

「……こんなとこでどうかな」

「わー。光太くん、写真上手なんですね」

「器用だよね」

 わいわいと話していると、サチさんがいつのまにかそばにいた。ちょっと涙目だ。

 見上げれば、はしごと男性と女性は居なくなっていた。神社はあちこちが綺麗になっていて……彼らは何者だったんだろう。

 魔法を使いながら木材を再生させたりしていたが、本当に『魔神』なんだろうか。

「いろいろあったけど! 改修工事が終わったし! お掃除ありがとね、紫織」

「サチさんの頼みならお掃除も喜んで、です」

 そっくりな二人が戯れる光景が可愛くて和む。

 サチさんは私たちを振り向き、頭を下げた。

「二人も来てくれてありがとう。やしろが新生したので、お参りしていってくれたら嬉しい」

「すごく綺麗になったね。でも、新築かと思ったら歴史あるような、まさに神社って仕上がり……」

 確かに、鳥居も朱塗りではあるけれど、柱には年月の経過を感じる趣がある。

 サチさんが嬉しそうに胸を張る。

「腕のいい大工さんを頼んだからね! ……腕と反比例する頭で苦労したけど」

 やっぱり先生の親戚さんなのかなあ……

「正式に巫女と神主が来ることも決まったし!」

「おめでとうございます!」

 口々に祝いの言葉を述べると、サチさんが照れくさそうに笑う。

「これでわたしも神さまらしく、土地の平定に努めるよ」

「応援します。東京に行っても神棚置くので、遊びに来てくださいね」

「うん」

 神棚……

「置いたら、サチさんが遊びに来られるんですね」

「それは紫織の体質込み」

 サチさんが紫織に抱き上げられる。

「わたしの本体……いわゆる御神体はこの中にあって、わたしはここの土地一帯なら姿を現わせられる。紫織は繋がりを保つのが上手いから、離れた東京の地に行っても、この土地と繋がったままのわたしを自宅の神棚に接続させられる」

「え、えへへ……サチさんに褒められました」

「今日も紫織が可愛いっ」

 二人とも可愛い。

 光太も見て和んでいるようだった。

「あのね、目の前でお参りされてしまうと、とっても緊張だし……わたしが中に入ったらしてね?」

「そこんとこ神さまとしてどうなの」

 光太が呟くと、彼女は赤い顔で怒った。

「う、うるさいし! ……心霊スポットだのなんだの言われてたから、お参りしに来る人なんて100年に1人居たかどうか……」

 切ない状況だったらしい。これから東京に行くまでは挨拶しに来ようかな。私の家の近所だもの。

「まあいいや。紫織、着慣れない服着て疲れたでしょう。送ってあげる」

「ありがとうございます」

「式にも来てくれてたもんね。ありがとう」

「ありがとう、紫織ちゃん、サチさん」

「どういたしましてです」

「あ、ちゃんとイチャイチャするんだよ?」

「頑張ってくださいね!」

 紫織とサチさんは『ふぁいとっ』と息ぴったりに言って、神社の建物に入っていった。

「「……」」

 思わず彼と顔を見合わせ、お互い赤くなる。

「と、とりあえず……お参り、しよっか」

「う、うん」

 改修工事のインパクトが大き過ぎて呆気にとられていたけれど、本来なら、入ってすぐ清めてお参りすべきだった。

 手水舎で手と口を清め、段を登ってお賽銭を投げ入れる。鈴を鳴らして……

 神社に来るのは初詣以来だ。

「神さまと顔見知りなのにお参りって、斬新だよなあ……」

「だね」

 サチさんにはリーネア先生がお世話になったし、お礼が出来て良かった。

「京はなんて祈ったの?」

「先生がお世話になりました……っていうのと、受験に合格して東京に行っても……が、頑張りますって……」

 本当は『東京に行って大学に入っても光太と恋人でいられますように』なんて願ったのだが……私の臆病が邪魔をした。

「光太は?」

「俺もまあ、その。……今まで見守ってくれてありがとうございますとか……東京に行っても……」

 おんなじだ。

「……行っても、京と恋人が、いいなー……なんて」

「…………」

 もじもじしてしまう。

「……わ、私も、ずっと……一緒がいいな」

「う、うん」

「「……」」

 光太が手を差し出す。

 私はそれを握る。

「……ちょっと遠回りして、ゆっくり帰ろう。送るよ」

「うん」

 少し遠回りして、公園に向かう。ベンチに並んで、光太の買ってくれたホットレモンのドリンクを持って座る。

「光太、泣き顔じゃないね」

「式前の時間で泣いたからリカバリが効いたんだよ」

「あっ……ずるい……私、先生に手紙読むとき泣いちゃったのに」

「そのときは気合で耐えた」

「そっか」

 彼の隣にいると心が安らぐ。話すだけで心が弾む。

 もっと話していたいのに、空が夕暮れから薄暮へと変わっていく。

 寂しいな。

「…………。京」

「なに?」

「……そのですね。……えっと。実は、今日、みんなで卒業祝いやろうって話が出てて。リーネアさんから京に予定ないって聞いてたんだけど、大丈夫?」

「あっ、そうだったんだね! うん。空いてるから、もちろん参加するよ」

「良かった。このまま京の家行って着替てもらって、ばあちゃん家で集まる予定。リーネアさんが送ってくれるというので俺は甘えさせてもらいます」

「それでいいと思います。……ところで、佳奈子ってどうしてたの?」

 前日の式練習には来ていたのに。

「なんか……体調崩したらしくて。シェルさんたちとばあちゃんつきっきり」

 シェル先生はそこを抜けて私を訪ねて来たのか。メッセンジャー役をしてくれたらしい。

「……えーと……」

「?」

 彼は先程から何やら苦悩しているようだった。

「光太? 何かあったのかい?」

「……もう無理だ。とにかく、これをご覧ください!」

 彼は自分のスマホを取り出し、何やら操作をして私に手渡した。



  ――*――

 ~星間つーしん:恋愛の小部屋 世界初心者 さんの予約済み~


[1:世界初心者]

 彼女とキスがしたいです



[2:しみら]

 可愛いお悩みですね。

 初々しいカップルと見ました。



[3:タマ]

 お悩みが純朴過ぎて


   ・

   ・

   ・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る