捕まるスライム

 こうして、あっさりと捕縛されてしまったわけですが。


 颯真は悩んでいた。

 とりあえず、罠用の生肉はありがたく頂いたものの、魔術網にかかったまま、颯真は身動き取れなくなっていた。

 普通の網なら液状化でもして逃げようはあるのだが、魔術で編まれた網は対象の行動制限が付与されているようで、擬態どころか形状変化もままならない。


 幸い、罠に嵌まったことにはまだ気づかれていないようだが、見つかったが最後、文字通り最期のような気がする。


 見たところ、魔術は魔方陣によって常時発動している。魔方陣の一角でも崩せさえすれば、魔術を無効化できそうだが、いかんせん身動きできないのだからどうしようもない。


 ただ、若干の希望はある。

 連中が捕縛しようとしていたのは、あくまで凶暴な放電針鼠スパークラットであって、見た目ぷにぽよで愛嬌のあるスライムではないはずだ。見逃してもらえる可能性はあるかもしれない。

 まあ、所詮は魔物だからして、問答無用で焼却排除される可能性も高いような気もするが。そこは出たとこ勝負ということで。


 颯真は待った。

 だが、人が上ってくる気配はない。それどころか、にわかに階下が騒がしくなってきた。


(階下というよりも、こりゃあ塔の外か?)


 外壁越しに叫び声や喧騒といったものが聞こえる。


(おっとっと)


 塔がわずかに揺れた。次いで響くは爆砕音。

 どうやら外で、誰かが破壊魔術を行使しているらしい。しかも、結構派手に。


 ぱらぱらと天井から破片が降り注いできたと思うと、天井の一部が崩れて、人の頭ほどもある石材が颯真にクリーンヒットした。

 スライムボディはぽよんと弾き返し、ダメージこそ受けなかったが、断続的に崩落してくる石に降られるのは、気持ちのいいものではない。


 塔の揺れと、喧騒は止まらない。

 颯真もそろそろ状況を知りたかったが、いかんせん身動きが――


 びしり。


 天啓か福音にしては豪快な音だったが、相次ぐ揺れで床に亀裂が入っていた。

 幅わずか数mmという些細なひびではあったものの、幸運なことに魔方陣のある箇所まで至っており、傷つけられた魔方陣は術式としての効力を失った。

 同時に魔術網も消失し、颯真は自由の身となる。


(よーわからんが、助かった……のかな?)


 縛めは解かれたものの、周囲の状況は相変わらずだ。

 確認してみようと、颯真は手近な窓に近づいたのだが――なにやら、窓一面が半透明のゲル状の物体に、覆われてしまっていた。


 どこかで見たことあるような物体だが、これでは窓から状況をうかがうどころではない。

 颯真は階段の壁伝いに、塔の屋上に上ってみることにした。

 そこからなら、周囲は一望できる。


(な……)


 そうして、屋上に辿り着いた颯真が見たものは。


(なんじゃ、こりゃー!)


 体長20mを超える、超巨大なスライムが塔に取り付く姿だった。

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