vs罠
突如として魔獣が現われ、宮廷魔術師がふたりもやられたとあって、塔内は上を下への大騒ぎとなった。
しかも、それが凶悪な雷獣とあっては、動揺っぷりもひとしおだ。
「なぜ、塔に魔獣がいる!? 事前確認は完了していたはずだろう!?」
「魔術結界はどうした! 監視を怠ったのではないのか!?」
「よりによって
「騎士隊を前に出して足止めし、その隙に魔術で仕留めればいい!」
「冗談ではない! 我らの装備では感電死しろと言っているようなものだ! 足止めすら不可能だ! とても受諾できん!」
階層のひび割れの隙間から、颯真が階下の様子を覗き見てみると、こんな怒号が飛び交う有様だった。
(ごめんなー。こんなつもりはなかったんだけど)
反撃したのは攻撃されたから止むなしで、颯真とて好き好んで敵対したいわけではない。
颯真もできることなら出て行って説明したいところだったが、とても言い出せる雰囲気ではなかった。それ以前に、信用してくれるのか、信用しても見逃してくれるのかも怪しいところだ。
よって、颯真は成り行きをうかがうことにした。
しばらく時間を置くことで騒乱も落ち着きはじめ、最後に満を持して登場した調査団長のカミランの一喝により、場は完全に沈静化した。
カミランの指揮のもと、侵入経路はさておき、まずは安全確保第一ということで、すみやかに討伐隊が編成されることになった。
調査も一時中断されて、討伐の任には宮廷魔術師があたることになった。騎士隊では、雷獣の電撃を防ぐ手段がないという理由からだ。
颯真が実際に体験した感じ、確かに
宙に浮いてでもいない限り、超高速で壁や床を伝導する高電圧の電撃からは逃れられない。攻撃を避けるということが不可能に近いのだ。
避けられなければ防ぐしかない。となると、やはり魔術士の防御魔術に頼るしかないというわけだ。
颯真の眼下では、
懸命に策を練った先から盗み見るのは忍びなかったが、なにせ討伐対象は自分なのだから、颯真も遠慮している場合ではない。
作戦としては、直接戦闘はなるべく回避し、罠による捕縛後に遠距離魔術による排除、となったらしい。
なんでも、魔獣捕獲のセオリーともいうべきものがあって、今回もそれに則って行なわれるそうだ。
(くう~、言っちゃ悪いが、面白くなってきた!)
颯真としては、危機感よりも興味のほうが上回る。
颯真自身、そういった危機意識の欠如こそ、
もっとも、現状をすっかり受け入れて楽しんでいる感のある颯真にとっては、自覚したところで一笑に付する程度の事柄だろうが。
颯真は塔の最上階まで移動してから、呑気に討伐隊の準備が終わるのを待っていた。
罠を仕掛けるのは塔の3階――先ほど宮廷魔術師と遭遇戦を行なった階層を中心に行なわれるらしい。
(さって、そろそろかな~)
どやどやと物音がしていたのが収まるのを待ってから、颯真は壁伝いに3階に移動してみた。
そこに仕掛けられていた罠とは――
(……まじかー)
通路の中央に、これ見よがしの大きな生肉の塊が置かれ、その四方を小さな魔方陣が囲っている。
どう見ても、罠。それ以外なさそうな問答無用の罠。ザ・罠だ。
まあ、実際に罠なのだけれども。
期待して損した感が半端ない颯真だったが、よくよく考えると、いかに魔獣とて中身はただの畜生。普通の獣用の罠で充分ということか。用いられているのがトラバサミではなく捕縛魔術な分だけ、立派に魔獣用といえなくもない。ただ――
じゅるり。
別の意味で確かに効果はあるだろう。
颯真は塔に戻ってから、まだなにも
にもかかわらず、塔に入るまでに何度も擬態を行ない、その後も塔の内部を行ったり来たり。ついでに
はっきり言って、腹ペコ状態だった。
颯真は罠に近づき、魔方陣にその辺の石ころを放ってみた。
石が魔方陣に触れた途端、描かれた紋様が発光し、光の網のようなものが石をからめとる。
今度はちょっと高めの放射線状に石を投げると、床に落ちた段階で、また光の網が出現した。
(検証しゅーりょー)
結果は2点。
魔方陣の魔術は何度でも発動する。そして、空中では感知せず、あくまで魔方陣に触れた場合のみに発動する。ということ。
だったら、こうすりゃいいだけだよね~。
颯真はスライムボディの一部をにゅーんと伸ばし、魔方陣を越えて生肉をキャッチした。
相手が想定しているのは、
(くっくっくっ。元人間の英知を舐めんなよ。ただの獣と侮ったのが敗因よ!)
颯真は悪代官もかくやと悪い顔でほくそ笑み、どや顔で生肉を床から掴み上げた。
スライムなので、あくまで心情的にだが。
ただ、その瞬間、生肉を中心とした半径2mほどの床に、新たな魔方陣の紋様が浮かび上がる。
(へ?)
隠蔽されていた魔方陣の魔術が発動し、生肉もろとも颯真を捕縛した。
先ほどとは比べ物にならないほどの数の光の網が、これでもかと多重に巻きついてくる。
(へ? あれ?)
あっという間に、颯真のスライムボディは、雁字搦めに床に縫い付けられてしまう。
いわゆる――知恵比べ負けである。颯真の英知とやらは、獣のそれと大差なかったというわけだ。
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