宮廷魔術師 2
「危急の任ゆえ、突然のご訪問の無礼をご容赦いただきたい。私は宮廷魔術師のカミラン・シェードス。此度の調査団の団長を務めさせておいていただいております」
「どうぞお気になさらず。こちらこそ、宮廷魔術師様に対して、このような場で申し訳ございません。ラシューレ子爵が3女、ここリジンの領主代行、レリル・ラシューレです。当家へようこそ。カミラン様」
「こちらは部下の――いえ、ご紹介は不要でしたな、レリル様」
「ええ。彼女とは幼馴染ですので。お久しぶりですね、ネーア」
「そうですね、お久しぶりです。レリル様」
「本日より、宮廷魔術師10名、同行者32名、こちらにてお世話になります」
「ええ。父からの報にて委細承知しております。宰相閣下ご下命の急務とのこと、当家としても助力は惜しみませんわ」
堅苦しそうな挨拶が始まったので、颯真はお茶などを啜りながら、大人しくソファーに腰かけて待っていた。
礼節を踏まえ物腰こそ柔らかいが、倍以上も年上の壮年男性を相手にして、レリルの応対も堂に入ったものだ。
凛とした雰囲気の中に、穏やかな表情を浮かべ、さっきまでとは別人のよう。裏表を使い分ける辺り、さすがは貴族といったところか。
小難しい話に興味の欠片もない颯真は、お茶もなくなったので、手持ち無沙汰に絨毯の毛をむしって暇潰ししていた。
それにしても――と颯真は思う。
スライムになってから、性欲などとは無縁と思っていたのだが、ネーアという
身長が150cmなさそうなのに、バストは90cmオーバーしてそうだ。
同年代のレリルとこうして並んでいると、ネーアの豊満さがよりいっそう強調される。レリルの貧相さが強調されるとも言い換えれるが。
あの歳であの
と、レリルから横目で物凄い睨まれていたので、颯真は目を逸らした。
「して、そちらの御仁をご紹介いただけませんかな?」
「ん、俺?」
いきなり話を振られたので、颯真はついつい素っ頓狂な声を上げてしまった。
お偉方には路傍の石くらいにしか認識されていないと思っていたのだが、どうも違ったらしい。
「彼ですか? 彼は……えーっと、なんだっけ?」
(やっと気づいたか)
そう、颯真はレリルに名乗ってはいない。
身元どころか名乗ってもいない男に対して警戒心0だったので、悪戯心で颯真も黙っていたのだが、指摘されるまで気づかないとは、なかなかに天晴れだ。
見た目、家柄共に文句ないのに、中身は残念なポンコツで、颯真としてはむしろ親しみが湧く。憐憫や同情心の類といってもいいか。おバカな犬が尻尾を追いかけてぐるぐる回っているのを、微笑ましく見守るような。
「あの、えと、そのですね」
途端におたおたわたわたして、そろそろ淑女のメッキが剥がれかけてきたので、颯真は仕方なく助け舟を出すことにした。
「ども。颯真っす」
「そうそう! こちらはドモ・ソーマッス殿です!」
「颯真」
「颯真です、颯真! あはは!」
「颯真殿、ですか。失礼ですが、名のある魔術士とお見受けします。出自などをお聞かせ願えないでしょうか?」
カミランの視線が鋭くなった。率直に睨んでいると言っていい。
口調は丁寧だが、発せられる威圧感といい、それはもはや詰問だった。
空気が切り替わったのを察し、レリルとネーアが息を呑む。
しかし、スライムになってからというもの、そういう機微に鈍くなった颯真は、どこ吹く風だった。
「魔術士? 俺が? なんで? 俺は
ふたりの睨み合い――といっても颯真にそのつもりは皆無だったが、それは30秒ほども続き――
「……とぼけるか。まあいい。大事の前の些事だ」
小声で漏らすと、カミランはレリルに向き直った。
「それでは、レリル様。私は任務がありますので、これにて失礼いたします。ネーア君は別行動だ。レリル様との旧交を深めるといい」
「ありがとうございます」
レリルに一礼したカミランは、ネーアを残して足早に退室してしまった。
ドアが閉まってゆっくり10ばかり数えるほどの時間を待ってから、レリルがネーアに飛びついた。
「やっはー! ネーア、久しぶりー! 元気してた!? もう2年ぶりくらいじゃない! 連絡くらいくれたっていいのに! このこの!」
「痛い痛い。ごめんね、レリルちゃん。宮廷魔術師に抜擢されてから、なかなか時間も取れなくて……」
旧知の間柄でも、かなり仲がいい部類らしい。
口調も豹変して、レリルが親しげにネーアの首に抱きついている。
美少女ふたりが抱き締めあう様は、なんとも絵になる。
特に、ふたりのぶつかり合い、形を変える胸部――大と小、巨と微の織り成す
「ぶっ!」
颯真の顔面に、レリルが投げたスリッパが直撃した。どこに持ってた、そのスリッパ。
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