運命は二度も起こらない

高背 新野

プロローグ

四人の最期の始まり




「必然だ!」




"■■■■"は、杖もつかずに起き上がるとそう叫んだ。


「そう、全てはこの日のために! 私はここまで積み上げ、こうして私は、ここに、こうして、なったのだ!

クク、クハハ、クハハハハハハハハハハハ」


 教会のステンドグラスより見える月光が■■■■を包み込む。

 それは、まるで■■■■を月が祝福をするように。



 しかし、その祝福を邪魔する音が響く。唯一の入り口である扉をいかなる手段を使ってでも破壊しようとする音が教会内に響き渡る。何度も。何度も。何度も。


「ふふ、そう慌てるな。今開けてやろう」


 扉が勢いよく開かれる。そこに立つは黒き騎士。右手には戦斧、左手にはフレイルが。

 その騎士の後ろには、うつ伏せに倒れた銀髪の人物。

 その人物は明らかに生きてはいない。様々な武器が背中から貫いており、血溜まりが広がりつつある。

 騎士に敗れたことは語るまでもないだろう。


 騎士の背後のソレに■■■■は見向きもせず、両手をひろげ黒き騎士に声をかけた。


「さぁ、続きを始めよう」




 ※ ※ ※ 




「我が悲願は、何一つ叶わないのか……」




 私は、教会の扉に手をかけ開け放った。


『奴だけは別だ』


 先程聞いたその言葉の真意が分からない。奴も人外の化物であることには代わりはないのだ。それでも私は殺るしかないのだ。この我が身を滅ぼす結果になろうとも……。


 教会内部は、がらんとしており最近まで使われていないことがよく分かる。きれいに並べられた教会の椅子は中央を境に向かい合わせに置かれており、ホコリが被っている。そのホコリを踏み分けて中央の大扉に進んだ跡が見える。その情報だけで十分だった。


 私は覚悟を決め中央の大扉に向かう。

 ここまで来ても何もできていない自分が不甲斐ない。

 この戦いに何か意味はあるのか、私にはそんなこと分からない。

 何故、どちらかが死なねばならないのか。

 分からない、分からない。

 だが私は、止めなければならない。


 私は、扉に手を駆けた。



 バンッ!!!



 背後から扉が閉まる音がした。教会の入口だった扉だ。

 私は、気にせず扉を押し引きするが、扉はびくともしなかった。

 扉から両手を離し、後ろを振り返る。

 全く同じタイミングで振り返った男は、私のよく知る男だった。

 アイマスクで視線は見えず口は一文字に結ばれ、表情を読み取ることはできなかった。


 私は中央に向かって歩き出した。

 あいつも中央に向かってあるき出す。

 全く同じタイミングだ。

 私が右足を出せば、あいつは左足を出して歩く。

 右手で抜剣をすれば、あいつは左手で抜剣をする。

 大剣が椅子に当たったが、私は気にせず歩き続け中央で"面"と向かい合った。

 実際に魔法を受けたことはなかったが、これは"鏡"なのだ。

 この部屋は完全に線対称になっており、あいつは鏡に映る私の虚像なのだ。


 私は両手で剣を持ち頭の上に構えた。

 "鏡に映る私"は、同じように剣を構えた。

 剣のサイズはわたしの剣が長さも重さも上回っている。このまま振り下ろせば普通はどうなるかは、想像がつくだろう。


 私は本気で剣を振り下ろした。

 渾身の力で振り下ろした。


 しかし、互いの剣は寸分違わずぶつかった。

 まるでこの部屋の真ん中を堺に存在する壁を叩いているようだ。

 これが鏡の魔剣士"ミラン・ホワイト"の鏡魔法の片鱗だ。

 私の動きを完全にコピーするミランは、私がどのように剣を振っても寸分違わず剣先をあわせている。

 敵に回ると面倒だ、とは思っていたが、ここまでとは……。


 だが、もう終わりにしよう。


 私は最期に両手で、剣を振り下ろした。

 鏡に映るミランは、剣を振り下ろした。




 剣がぶつかった時、私は、槍でミランの胸を貫いた。




 ※ ※ ※ 




「何故、殺したの?」




 私は、祈り捧げる女性に問いかけた。


「そんな理由を何故、聞くのでしょう?」


 祈りをやめた女性は両脇に置いてある刀を拾い立ち上がると、こちらに静かに振り返った。ふつふつと怒りがこみ上げてきた。何故……、何故、聞くのでしょうって……。


「質問を質問で返さないで! 殺す必要はなかったでしょう! 何故殺したの!」


「その質問には答える必要はないでしょう? これから私達のどちらかが死ぬまで殺し合うことは変わらないのですから」


「それは違う! あなたが殺さなければ、この殺し合いは起きなかった。あり得なかった殺し合いだった。あなたもそれを理解していたはずでしょ? それを理解していて、なお、殺す必要があったのかと聞いているの!」


 あいつが、刀に魔力を込めているのがわかる。本当に殺し合いを始める気だ。

 分かっていたはずだ、と自分に言い聞かせる。話し合いでどうにかなる事じゃないことは分かっていたはずだ。結局、どちらかが殺すことには変わらないのだから。


 私がそう考えていた時、あいつはなにかに気づいたようにフフッと私を笑った。


「何がおかしい! 必要のない殺しがあってはならないのは当然でしょう!!」


「いえ、あなたは根っからの善人なのね。そう思っただけなの。例え私のようなモノであっても殺したくはないのですね。だからあなたは、こうして私に理由を聞いてるのね。自分の理解できない答えを求めて。

 フフッ。そんなに殺したくないのならあなたが無抵抗に私の攻撃を受け入れればいいじゃない?」


 あいつから殺気が溢れ出す。

 私はとっさに杖を構えた。そんな提案受け入れられるわけがない。こんなやつに勝たせるわけには行かないのだから。殺したくはないが殺さなければならない。本当に殺せないのなら私は、ここにはいない。こうなることは理解した上で私はここにいる。あいつを殺すためにここにいる。そうでしょう?と、自分を問いただす。


「そうよ、それでいいのよ。さぁ存分に殺し合いましょう?」


 あいつは、刀を下げゆっくりと近付いてきた。私は杖を構えたまま少し後ずさり、小さな声で何かの奇跡を祈るようにつぶやいた、本当に小さな声でつぶやいたのだった。


「どうしたら……いいの……」


 足を止めた。そして、急に笑いだした。この教会の部屋に響き渡るような大きな声で高らかにあいつは笑った。私は、ただそれを見ていることしかできなかった。


「あー、おかしいわ、あなた。まだ、平和的に解決できるすべを考えているの? 本気で? 笑ってすきを見せても一切攻撃する気もない。おかしくってつい笑っちゃったわ。この争いはどちらかが死なねばならない戦いだと理解して、なお、お互いを救う方法を考えている。あなたのような人をきっと聖女というのでしょうね。



 だからでしょうね、あなたを見ているとものすごく不愉快だわ。



 何も知らないくせに。何も分かっていないくせに。人一倍に善性を出し、考え、自らをも犠牲にして、ただ、他人の幸福や世の平和のため、行動をする。その結果が人の幸福につながるのならどんなことでもやってのける。どんなことでもやっていける。そんな無知な聖女の結末は唯一つ。


 悪に食われすべてが消える、ただ……それだけ……」


その言葉を最後に殺し合いが始まった。




 ※ ※ ※ 




「さぁ。私を、貴方様とこの世界のために、殺してくださいませ」




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