霊能絵師 藍花晴香の思い出

結城四季

第1話 過去

 私、藍花晴香は見えないはずのモノが見える。

 妖怪、幽霊といったモノたちが、物心ついた時から私のそばにあった。

 初めから一緒だったから別に怖くはなかったし、たまにイタズラされる事もあったが、それでも中にはいいやつがいることも知っていた。

 ある時、私はそのモノたちの絵を描いてみた。

 今の自分からすれば、その絵はとても上手と言えたような出来ではなくて、とても幼稚な絵だった。

 けれど、そんな絵を描いた私のことを、ただ一人の親である母はとても褒めてくれた。

 それがたまらなく嬉しくて、私はすぐに絵が大好きになった。

 それから成長して小学生になっても、私はその絵を描き続けた。

 もちろん、技術の方もいくらかは成長して、その頃にはすでにコンクールで賞を取っていたと思う。

 けれども、小学生の女子がそんな端から見ればわけのわからないモノを描くのは、有り体に言えばかなり浮いた。

 同級生からは男女関係なく気味悪がられ、いじめられ、化け物呼ばわりされ、次第に私は孤立していった。

 それでも私は良かった。

 だって、この絵を世界で一番褒めてくれる母がいたから。

 街中を廻って、近所の森林に入って、そこで見つけたモノたちを画用紙に描くと、母は必ず褒めてくれた。

 けれど私が小学校六年生になった頃、私の母は病で亡くなった。

 父は私が生まれてすぐに交通事故で亡くなったため、元々病気がちだった身体で働いていたのが祟ったらしい。

 女手一つで私を育ててくれた、私の絵を一番褒めてくれた人がいなくなった。

 その時私は気づいてしまった。

 自分みたいな見えないはずのモノが見える人がそばにいたから、悪さをする妖怪か幽霊が母を病気にしまったのだと。

 もちろん、何の証拠も確証も無い。

 けれど、そう思わずにはいられなかった。

 だって私は、わけのわからないモノが見える、気味の悪い化け物なのだから。

 親戚に引き取られ、中学生になった私は、絵を描く事こそ続けていたが、以前のように見えないモノを描くことはしなかった。

 そして妖怪や幽霊たちは、もう何年か見ていない。

 単に私が見る力を失ったからなのか、あるいは私が意図的に見ないようにしているのか、それすらもわからない。

 そうして普通の絵を描き続けて、たくさんの賞をもらって、気づけば天才少女などと周りから呼ばれていた。

 そんな事、もうどうでもいいのに。

 絵を描いたって何の意味も無いはずなのに。

 母が死んでからもう五年。高校二年生の冬になっても、私は意味もなく絵を描き続けている。

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