第9話本気でぶつかってみるとわかること

「花村。おつかれ!ほら。」



上念さんがいつもの屋上で、いつものタイミングで、いつもの笑顔でブラックコーヒーを持ってきてくれた。



「ありがとうございます。」



受け取る私もいつも通り。だけど今日は、ちょっとだけ違う。上念さんに、どうしても伝えたいことがあるのだ。



「よくがんばったな。良いアイディアだったよ。」



上念さんは、私の企画が編集長に褒められたことを、まるで自分のことのように嬉しそうに話していた。


私はそんな彼の雑談を聞きながら、コーヒーの缶のプルトップを開ける。



プシューッと良い音がして、缶コーヒー特有の香りが立ち上った。


それがいつになく、良い香りだったから、上念さんに私がこれから伝えたいことへの勇気がわいてきた。



私はもう、ごまかすのをやめるのだ。


「上念さん、聞いてください。」


「?」


上念さんは真剣な私の表情に気づく。


「私、今までずっと逃げてきました。上念さんに言われたことは、全部あたってました。本当は企画コンペだって参加したかったのに、自分に言い訳して真剣に勝負しようとしなかったのは、コンペに参加することで、自分の大したことない実力を、みんなから評価されるのが怖かったからです。」


「うん。」


「でも、上念さんに励ましてもらって分かったんです。人の顔色ばかりうかがってないで、私だってやりたいことをやってみても良いんだなって。そのためには、ときに人とぶつかる勇気も必要なんだって。」



上念さんは、私の言葉にふわりとほほ笑む。


「花村、成長したね。オレから見たら花村って、真っすぐで何だか、まぶしいよ。」



私は、今なら言える気がした。どうしても伝えたかったこと、上念さんに伝えなきゃ。



「上念さん、まだあるんです。私、ほんとは、本当は……。ブラックコーヒー、苦手なんです。」



「えっ。」

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