花嫁三千

エリー.ファー

花嫁三千

 モテない男が余りにも多すぎるので、政府は少しばかり考えたそうだ。

 そして、なにかしらの結論を導き出すことにした。

 もてない男に機械仕掛けの花嫁をあてがってやればいい。しかし、その花嫁はハグをすると、そのままその男たちの首をレーザーで焼き切るのだ。当然、子供を生み出さないような男などに用はない。性差別など知ったことか、と思いながらそれを内密に進めた政府は、秋葉原のいかがわしいお店を拠点にして、その政策を進めることにする。

 つまり。

 もてない男、駆逐政策。

 意義があるかと問われれば、間違いなく意義のある行為であったと思う。

 私は少なくとも、その政策を押す側にいたわけで、それ自体を批判する立場でもなかった。

 ただ、私には兄貴がいて、この兄貴がずっと実家の部屋に閉じこもっていた。面倒なので、この男を殺す。秘密裏に開発した花嫁三千の初号機を使って兄貴を殺すことにする。

 随分ぶっそうだと思うかもしれない。

 しかし、確認を取ると両親に関してはあっさりと承諾した。正直、そらそうだろう

と思った。

 早速、私は、殺すための最高級ロボット花嫁三千をかついで、兄貴の部屋へと入る。

「兄貴。」

「なんだい、弟よ。」

「兄貴を殺す機械を作って来たんだ。」

「何故だい。」

「もちろん、それは兄貴がまともに女生と関係を持つこともできないからだよ。」

「そうか。それはすまない。」

「いいんだ、兄貴。もう殺すし。」

「その前に弟よ、お前はその機械に殺される予定はないのかい。」

「ないよ。」

「何故だい。」

「だってよく考えてくれよ、兄貴。僕は政府側の人間だ。これに殺される筋合いはない。」

「お前だって、女の子と手をつないだこともないだろう。」

「僕はメイド喫茶ではある。兄貴みたいに、ニートとして生きている人類の不良債権にはできない芸当だろう。」

「酷い言われようだが、申し訳ない。兄貴はこの部屋でアフィリエイト報酬を得て、仕事をしているし、間もなく結婚する予定だ。」

「嘘だろ。」

「本当だ。」

「嘘だ。」

「お前の兄貴は女の肌のきめ細やかさを知っている。」

 僕は落胆した。

 同志だと思っていたのに。

 では、何故その同志を殺そうとしたのだ、と思うかもしれないが、そのあたりは目を瞑って欲しい。

「その前に、お父さんとお母さんに、兄貴のこと殺してもいいかなって聞いたんだけど。」

「おふくろと親父は、俺が生命保険をかけていることを知っている。たぶん、受け取り手を自分たちにしているんじゃないか。」

「まさか。」

 後ろで舌打ちが聞こえる。

 僕は肩を落として、花嫁三千を片手に部屋を出る。

「偶には実家帰れよ、おふくろがロールキャベツを作ると、いつも、お前の分も作っちまうってぼやいてるんだ。」

「兄貴が食べればいいだろう。」

「それもそうだ。問題は解決したから、帰ってこなくていいぞ。」

 僕は家の外で花嫁三千のスイッチを入れる。

 そして、そのままため息をついてしまう。

 僕はこのまま女のことを知らないまま死んでいくのだろうか、なんとなくそんな思いが心の中を占めていく。

「ご主人様、どうされましたか。」

「僕は女というものをよく知らないんだ。」

「ご主人様、それは誤解です。」

「何がだい。君だってロボットで、冷たい機械じゃないか。僕は絶対騙されないぞ。」

「自分で自分を騙すこともできないなら、女と恋仲になるのは無理ですご主人様。」

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