早押しの女王は押し負けない

右ひざ

プロローグ

「問題。おたまじゃくしのし——」

 ピコーン。

 大して広くもない教室に、この乾いた音はよく反響する。本日何度目かのピコーンに俺が抱いた感想はそんなものだった。

「アポトーシス」

 先輩の切れ長の目がじろりと俺の方へ向いた。

 ピコピコピコーン。

「正解です。おたまじゃくしの尻尾が無くなるといったような、あらかじめプログラムされた細胞死のことを何という? 正解はアポトーシス。お見事。こなちゃんこれで7◯ですね。早押しクイズ対決はこれにて決着です。お疲れ様でした〜」

 御愁傷様でーすとでも言いたげな表情で、問読みの彼女は俺に手を振る。

 俺は俺を騙してここへ連れてきたやつの方に振り返った。

「おい。なんだこれは」

「んー……やっぱダメだったかー。すまねぇ!」

 アハハハ——と満面のバカ面。

「え。マジでこれで終わり?」

 始まったばかりの俺の学園生活。考えずとも膨らんでいた希望、期待、夢、あんなことやこんなことがピコーンと吹っ飛ばされた気がした。

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