彼と彼の間
@Eve_1224
第1話
ディズニー好きな私に彼がディズニーランドとディズニーシーの泊まりの旅行をプレゼントしてくれた。
3つ年上の彼とは、付き合って2年になる。レンタルDVDショップでアルバイトをする23歳の私と店長の彼、みんなに秘密の社内恋愛。お休みの日は、二人で映画を見る。クリスマスにはちょっとおめかしして少し奮発したディナーを食べてプレゼント交換をする。そんなごくごくありふれた彼氏彼女の関係。
旅行の日、ディズニーランドでいっぱい遊んだあと、ホテルの部屋で彼から
「遊覧のナイトヘリ予約してあるんだ。」
と、伝えられた。
私は、はっとした。
ずっと前に私が言ったのだ。
「ヘリコプターで夜景なんて素敵!乗ってみたい!」
彼は、何気ないこの私の言葉を覚えていてくれたのだ。
プロポーズかもしれない!
付き合って2年、ナイトヘリ、23歳の私と26歳の彼。プロポーズかもと思うには十分すぎる。
覚えていてくれたなんて!素敵!と、大喜びする筈だった。筈だったのだ。
大きな喧嘩をした訳ではない。ただ、小さな小さな歪みに【彼】が気づかせてしまったのだ。
【彼】は、新しく入ったアルバイトの年下くん。背も私と同じくらいで大学生の彼は、茶髪で一重で見た目もタイプじゃない。(むしろ、彼氏の方が身長180cmの長身でパッチリ二重で見た目もタイプ。)
でも、一緒にいるのが楽しかった。好きな音楽が一緒でよくCDを貸し借りしていた。好きな漫画も一緒で感想言い合ってみたり、昔見ていたドラマが一緒で盛り上がった。
何より笑うポイントが同じだった。同じ瞬間に笑いを共有した。
気づくと私は、彼と【彼】をくらべていた。
「見て!カールじいさんいるよ!」興奮する私を苦笑いで見る彼。
「俺、カールじいさん見た事無い。」
今までだったらなんて事無かった筈なのに、今の私は、
(【彼】だったらわかってくれたのにな。)
と、思ってしまう。
(【彼】だったら笑ってくれた。)
(【彼】に見せてあげたいな。)
(【彼】との旅行だったらもっと楽しいだろうな。)
小さな小さな歪みを【彼】が私に気づかせる。
こんな気持ちでは、プロポーズを受けられない。私は、焦って無言になっていた。
「あれ?遊覧ナイトヘリ乗ってみたいって言ってたよね?」
無言の私に彼の表情にも少し焦りを感じる。
「あ、マジで!スゴい嬉しい!楽しみ!」
今の私の精一杯の笑顔で答える。
(どうしよう。どうしよう。どうしよう。彼の事が嫌いでは無い。今すぐ別れようと思っている訳でもない。でも、確かに確実に【彼】が私の心にいる…。【彼】が好きなのかも今の私にはわからない。)
彼のスマホが鳴った。
遊覧ナイトヘリのキャンセルの電話だった。
上空の風が強くてヘリコプターが飛べないとの事だった。
「残念だったね。」
彼を見ることが出来ない。
「乗りたかったけどしょうがないね。また、次の機会に乗ろう。」
きっと彼は、優しく微笑んでいたと思う。
「疲れたし、俺先に寝るね。」
この時まで、私は気づいて無かった。
彼が私の異変に気づいている事に。あのくっつきたがりの彼が今日一度も手を繋いでいない事に。私を抱き締めていない事に。私に、触れていない事に。
彼と共感しようとする事を私がやめた事に。
溢れる涙をシャワーと共に流し、彼にきづかれないようにそっとベッドに入った。彼の背中から伝わる温度を背中で受け止める事が精一杯だった。
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