第27話 お風呂の伝言


「ふー……今日からここが俺達の家か」


 俺は自分の部屋のベッドに転がりながら感慨に耽っていた。思えば王城に召喚されてから今まで色々な事があった。全く体験した事のないことばかりだったが、生きるのに必死でこうやって居を構えて落ち着くまで振り返る暇も無かったな……。


――コンコン。


 俺が物思いに耽っていると、ドアをノックする音がした。


 ドアを開けると、黒髪がしっとり濡れたレアが立っていた。上気した頬がほんのり色っぽい。


「お風呂空いたわよ」


「あ、あぁ」


「どうしたの? へんなの」


 俺の生返事にレアは首を傾げる。


「な、何でもないよ。それよりお前こそ今日は何か変だったぞ。どうしたんだ?」


「……」


 俺の言葉にレアは黙ってしまった。何か変なこと言ってしまったか……?


「……実感が沸かなかったの」


 しばらくしてレアはポツポツと語り始めた。


「今まで私、ずっと一人だったの。『孤』のせいもあるけど、この街に来てからも周りに迷惑かけないように毎日一人で行動してた。それが当たり前になってたの。でもアンタと出会って変わったわ……。仲間が出来て、一緒に冒険して……あんな大勢でお酒を飲むなんて考えもしなかった」


 そっか……コイツは……。


「それで今日、こんなお屋敷に皆で住めるなんて……って思ったら何か実感沸かなくて……だから何と言うか……アンタには感謝してるって言うか……」


 後半しどろもどろになるレア。


「あーっもう、とにかくそんな感じなの! 私もう寝るから! アンタもさっさとお風呂入って寝なさいよね!」


 そう言うとレアは自分の部屋に走っていった。


「……一人で完結しやがって。……風呂入るか」


 残された俺は、若干の気恥ずかしさを拭いつつ風呂場に向かった。


――


「おぉ、やっぱ広いお風呂は気持ちが良いな!」


 改めてみる風呂場の広さに俺は満足していた。


「さて、先ずは体洗うか」


 俺は洗い場の前に移動し、置いてあった風呂桶に手をかけると……


――レン、パーティー組んでくれてありがとう――


「レア?」


 響いたレアの声に俺は思わず振り向く。誰も居ない。脱衣所にも人影は無い。


「……?」


 不思議がる俺は桶に入っていたお湯を流す。……ん? これは……見覚えのある桶が気になった俺は、空になった桶をひっくり返してみる。すると裏底には「振」のルーンが刻まれていた。


「……なるほど」


 あいつめ。



        §



――翌朝。


 俺が起きてリビングに行くと、眠れなかったのかもうレアが先に起きていた。


「おはよー」


「おはよう、レン」


 ! はたと思いつき俺は企みを行動に移した。


「なぁレア」


「何?」


 こちらに振り返るレア。


「……これからもよろしくな」


 俺の言葉にレアは一瞬目を見開いたが直ぐにいつもの調子に戻った。


「……当ったり前じゃない!!」


 ……少し照れたようにそう言い放つレアの口元がニヤついていたのを俺は見逃さなかった。

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