第3話 文字の世界
「お兄様はもしかするとこの国ではない、もっと遠い所から召喚されてしまったのかもしれません」
先ほどとは逆に、今度は俺がイリアから教えを受けていた。いや何処から来たのかは分かっているんだがそれを説明しても信じてもらえそうにないのでそれは置いておく。
「というかその“お兄様”ってなんだよ」
「先ほどお兄ちゃん許しませんよっておっしゃっていたではありませんか。それにお兄様は私が知らない事を沢山知っています!」
自分の珍発言を冷静になって他者から聞かされると無性に恥ずかしくなってくる。……それもこんな真っ直ぐな目で。
「……私には兄弟はおらずそういったものに憧れていたのです。……ダメですか?」
その目も反則だろ。
§
「話を戻しますがお兄様は
「持ってないどころか存在も知らない」
そう言うとイリアは難しい顔をして顎に手を当てた。
「私達人間は十歳になると、誰でもスペルスタンプという物を体に押します。すると押された模様が体の中に吸い込まれ、この十年間自分が生きてきた魂と交じり合ってその人固有の
「一文字? イリアのは二文字じゃないか」
「普通は一文字ですが王族は“力在るもの”としての血が濃いので
なるほどな。そもそも
「驚いたよ別の意味でな……。じゃあ人の数だけ
「半分正解で半分ハズレです。同じ
イリアは部屋の真上を指差した。見ると、シャンデリアのような照明器具の中心部分に「灯」と大きく記されたモノがぶら下がっていた。
「あれはこの国一番の『灯』職人が作ってくれたものです。なるべく煌びやかに見えるように加工するため『灯』の
何の個性もない俺は最後の言葉に少しいたたまれなくなりつつも、この世界と
「お兄様は十六歳なのにその存在さえも知らない。という事は
……この子小さいのに鋭い、というか賢いな。さすが王族。
「でもそれなら何で会話はできてるんだ?」
今になって気づいたが俺達は普通に会話をしている。
「それはおそらく私が『召喚』を使った時の願いによるものでしょう」
イリアは本棚から一冊の本を取り出してきた。
「『召喚』は元々、術者が願いを込めて祈りを捧げ、それに応じてくれる生き物が呼び出しに応えてくれるといった魔法です。……熟練度が上がれば生き物を指定して呼び出すことができる様なのですが私はまだまだ召喚士として未熟ですから……」
俺が本を覗くと、文字かどうかもよく分からない模様が羅列してあるページの中に大きく、イリアに刻まれていたものと同じく丸で囲われた中に「召喚」と書いてある絵が記してあった。
「お兄様、このページが読めますか?」
「『召喚』と書かれているこの絵しか読めない」
「やはり……私が話し相手が欲しいと願ったのでお兄様には私達の言葉が理解できる様になっているのでしょう。……!? お兄様この『召喚』の
「え……普通に読めるけど……」
何をそんなに驚いているのだろう。……というか今の話を聞くと俺は普通にはじまりの街とかに転生していたら全く言葉も通じないままスタートさせられていたのではないか? 自動翻訳が転生時にされていたのだとしたらこのわけも分からない文字の方も読めていただろうし。 ……あの女神のヤロウ。
「お兄様これは!? これは!?」
イリアが次々と見せてくるページには色々な漢字の絵が書かれていた。衝、憶、縮、惑、爆……など様々だ。
「この絵で書かれた部分は読めるよ。ショウ、オク、シュク、ワク、バク……。こんなの十六歳にもなれば普通に読めるだろ?」
何をそんなに……?
「……この本に記されてある
イリアは驚いた表情で何かをブツブツとつぶやいている。
「お兄様……あなたは一体……」
真剣な顔でイリアが俺を見つめていたかと思うと、急に思い立ったような顔に変わって、
「ちょっと待っててくださいねお兄様……!」
と言い残して慌てて部屋から飛び出して行ってしまった。
「おーい……俺はどうすれば……」
一人残された俺は部屋の中で立ちつくしていた。
「まぁそのうち戻ってくるか……それよりこれからどうするか考えないと。……確かあの女神は魔王を倒せとか言ってたな。しかし倒せったって武器も何もないんじゃ……」
そう思いながら何か無いかと体中をまさぐってみる。すると、ジャージのポケットに突っ込んだ手の指先に何かが触れたのが分かった。何だろうと取り出してみると、それは転生する直前に掴んだ紙切れだった。あの時はしっかり見る余裕がなかったが、改めて見てみるとそこには『運極ガチャチケット!』とカラフルな文字で書いてある。
「なんだこりゃ、ガチャもないのにどうやって引けば……そもそもこういう物って現実にあるもんなのか……?」
俺が頭を悩ませながら裏を見てみると、『残り9回』と端の方に書いてあるのを見つけた。と同時に部屋の外からノックの音と女性の声がして部屋のドアが開く。
「姫様、ご入浴の時間でございま……」
流れる静寂……。前にもこんな事があったような……。俺はとりあえずなるだけ失礼のないように声を掛けてみた。
「あ、どうもおじゃましてま……」
「何者だ貴様ぁ!!! 姫様をどこへやった!!!」
鎧を身にまとった女性が剣を抜き斬りかかってくるのと、俺がこの世界への転生を後悔しだしたのは同時だった。
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