惚れやすい俺は何度だって恋をする
旅ガラス
第1話 彼
俺は俗に言う、一目惚れしやすいタイプだった。
1番最初に一目惚れしたのは中学1年生の頃。
入学式で、隣の席に座っていた女の子を見た瞬間、動悸が激しくなり、目を奪われた。
そこから毎日のように話しかけ、積極的にアプローチをかけた俺は、未だ子供心を残していながらも、入学してからひと月で女の子と付き合うという結果を残す。
彼女とは部活が違ったが、部活終わりに待ち合わせをして、彼女の家まで送り届ける。
この重要かつ崇高なミッションを失敗したことはない。
やはり中学生と言えば、まだ周りから茶化される年頃。
その時の俺は周りから茶々を入れられ、激昂したこともあった。
それでも彼女は冷静に、優しく、俺を宥めては笑ってくれた。
彼女の方が精神的に大人であったのが助かった。
そんな彼女に、俺は一層惚れた。
ーーーーーーーーー
中学2年生の4月。
俺は隣のクラスにいる女の子に一目惚れした。
俺は今までの事は全て忘れ、その子に自己紹介をし、一目惚れをしたことを伝えた。
彼女は驚いたように、だけど微笑みながら、「冗談はやめてよ。エイプリルフール?」と言った。
流石に、急に告白し出した男に対して、好意的な感情はあるわけなんてない。
それでも俺の溢れる感情が止められなかったんだ。
彼女はすぐに俺と打ち解けた。
色々と話が噛み合わなかったりすることもあったが、そんなことは全然気にしない。
彼女と話すことができる。
それこそが俺にとって至福の時だったんだから。
ーーーーーーーーー
中学3年の4月。
俺は同じクラスの女の子に一目惚れした。
思いのたけを伝えたところ、不快感を強く示す顔をして、「ふざけてるの?」と怒られてしまった。
俺はやってしまったと思った。
感情に身を委ねすぎて、相手の気持ちを考えていなかったのだ。
しばらくの間、俺は彼女に話しかけるのを控えていた。
しかし、しばらく経ったある日、彼女の方から声を掛けてきてくれた。
「強く言い過ぎてゴメンね」と。
謝るのは俺の方だ。
俺に非があるのに、彼女が謝る必要はないのに、一方的に彼女を避けて、さらに嫌な思いをさせていた。
男として情けなかった。
俺は彼女に謝罪し、そして改めて正式に好きな気持ちを伝えた。
彼女は笑っていた。
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新たな風吹く高校1年生の4月。
俺は1年3組になった。
そして初日の行程が終わった頃、1人の女の子に声を掛けられた。
その姿を見た瞬間、俺は一目惚れした。
「一緒に帰ろう」と誘ってくれた彼女は、俺の好みにドンピシャだった。
「喜んで」と言うと、彼女は俺の手を握ってきた。
そんな馬鹿な。
初対面で男の手を握る女の子なんていてたまるか。
童貞の妄想も大概にしろ。
と、今までの俺だったら思っていただろう。
だが、事実は小説よりも奇なり。
実際に起きているものは否定しようがない。
俺は顔が赤くなるのを感じた。
「どうしたの?」と聞かれ、俺はテンパりながらも自分の胸の内に込められた熱い気持ちを言葉にして贈った。
彼女は笑いながら「知ってる」と一言だけ言った。
そんな彼女の笑顔に見惚れながら、夕暮れ時を一緒に下校した。
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高校2年生の4月。
俺はアルバイト先の女の子に一目惚れした。
机を拭いている彼女、レジ打ちをしている彼女、料理を運んでいる彼女に心ときめいた。
俺はアルバイトが終わった後も彼女を待ち、出てきた彼女に声を掛けた。
「待っててくれたんだ」という彼女の言葉に驚きを隠せなかった。
嬉しそうに笑っている彼女は自己紹介をしたため、俺は焦って噛み噛みで自己紹介をしてしまった。
ある意味掴みはOKだが、みっともないことこの上ない。
俺は彼女に好きだということを伝えた。
「奇遇だね、私もだよ」と、まさかの両想い。
こんなことってあるんだな。
今なら死んでもいいぜと叫びたくなる。
彼女は俺と同じ学校の生徒だという。
神の存在を、俺は初めて信じた。
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高校3年の4月。
彼女の存在に気が付いたのは偶然だった。
食堂で昼食を食べに行こうとした時、楽しくお喋りしていた女子のグループの中に、彼女はいた。
その神々しい姿に言葉を失った。
失語症になったのかと錯覚した。
俺は彼女が1人になった頃合いを見計らって接触した。
ストーカーみたいだが、まだセーフ……のはず。
俺は丁寧に自己紹介し、一目惚れしたことを伝えた。
彼女はまるで慣れているかのように微笑み、「ありがとう」と一言お礼を言った。
俺は彼女にアレコレ質問し、彼女はそれに嫌な顔一つせずに答えてくれた。
女神だ。
そうして彼女と俺は付き合うことになった。
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大学1年の春、現在。
俺は病院にいた。
ザックリとだが、これまでの人生をまとめて日記に書き記してみた。
これまでの人生を振り返ることができたのは、正直言って奇跡に近い。
むしろ、どうして忘れていたのか、それさえ俺には分からない。
部分的記憶障害。
俺はそれを生まれつき持っていると医者に言われた。
それも特異な記憶障害で、1年単位で俺が最も大切だと思っている人の記憶が、全てなくなってしまうというものだった。
そして自分自身も、記憶障害について自覚が出来ないという。
両親が俺の異変に気付いたのは、6歳の頃だと話していた。
4月1日、突然母のことを「誰?」と聞いたそうだ。
最初は構って欲しいことからの悪ふざけだと思っていたそうだが、あまりにも長く続くため病院で確認してもらったところ、記憶を司る海馬に異常が見られたそうだ。
特異性についてはその後の数年間で判明したらしい。
両親は俺に記憶障害のことについて話していたそうだが、4月1日になると同時にそれも忘れてしまっているらしい。
今でもその辺りの記憶は俺にはない。
そして1ヶ月ほど前から、記憶障害の症状が酷くなってきた。
忘れてしまう情報量が増え、期間も短くなってきてしまった。
そのため入院することとなったが、俺は目覚めるたびに自分が何故ここにいるのか分からないため、父や母、そして彼女に迷惑をかけてしまっているようだ。
今、何故これまでの記憶が突然戻ったのかは分からない。
だけど1秒後には忘れてしまうかもしれないという恐怖が、ゆっくりと首を絞めてくる。
だから文字に起こした。
記憶を忘れた俺が、この日記を見て少しでも思い出せるように。
この日記を見たみんなが、俺にも記憶が残っていると知ってもらうために。
そして…………
俺はそっと日記を閉じた。
少しづつ、頭に白い靄がかかっていくのを感じる。
俺はまた、記憶を取り戻せるんだろうか。
あるいは、永遠に俺は大事な出来事を何一つ記憶することができずに、残りの余生を過ごすのだろうか。
神様という存在がもしいるのなら、一つだけ願いを聞いてくれ。
彼女を幸せにして欲しい。
俺なんかに囚われず、彼女自身の人生を歩んで欲しい。
俺は充分にいい思い出をもらった。
もし記憶を無くした俺が彼女に会えば、間違いなく俺は一目惚れするだろう。
だからもう…………俺の元へは……。
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