折れた剣

kumapom

サラ村へ

 村が燃えていた。

 

 王都へ行く旅の途中に立ち寄ったサラ村。家々が、紅蓮の炎の中で黒く揺らめいていた。

 次々と村人が逃げてくる。


 一人の男を呼び止めて事情を聞く。

「何があったんです?」

「魔物が!クモの魔物が出たんです!中に行ってはダメです!」

「兵士は?」

「敵わないって言って、援軍を呼びに行ったまま帰ってきません!ああ、もう、あいつらめ!私も逃げますよ!」

 そう言うと走り去ってしまった。


「どうする?」

 一緒に旅をしているパーティーの他の三人に聞く。パーティーは魔法使いのアンジェラ、召喚士のガフル、シーフのミラ、そして戦士の自分、デビッドだ。


「そうね……無視してもいいんだけど……」

 アンジェラがそう言う。

 周りを逃げる人々が走っていく。

「ここは戦おう。逃げられる人ばかりとは限らない。残っている人もいるはずだ」

 そう俺は答えた。


 アンジェラに鼻先を小突かれ、笑われた。

「あなたらしいわ」

 他の二人も戦うことに同意した。村の中へと歩を進める。


 広場に近づくと、巨大な八本足の魔物が見えてきた。単なるジャイアントスパイダーの一種かと思ったが、上半身が人の形をしている。まずい予感がする。


「これを持って。あなたを毒から守ってくれるわ」

 そう言ってアンジェラが渡してくれたのは銀のアミュレットだった。心強い。


 戦いは熾烈だった。

 ガフルの召喚したゴーレムは一瞬で崩れ、ミラのナイフはことごとく弾かれ、俺は防戦一方だった。

 盾で魔物の前足の突きを防ぎ、剣で横へ弾くが、ダメージが与えられない。皮膚が硬すぎる。それに力も強い。

 唯一効いているのがアンジェラのファイアボールだ。撃つ度にじりじりと魔物を弱らせていく。だが、もう魔力が持たないらしい。

 ガフルのゴーレムももう召喚できない。ミラはナイフに魔法をかけて立ち向かっているが、それほど効果は無さそうだ。


「もう、あと一発ぐらい!」

 アンジェラが言う。

 どうする?どうすればいい?そして俺は気付いた。奴の焼けて弱っているその殻を。そこに目掛けて剣を振るう。吹き出す紫色の血。さらに剣を突き刺し、引っこ抜く。奴の前足の一本が宙に舞った。


 アンジェラの最後のファイアボールが空を切り裂いて飛んだ。魔法は奴の頭部に当たり、弾け散った。その瞬間、奴の赤い目が大きく開いた。


 繰り出された前足の鋭い蹴りが繰り出された。盾で防ごうとしたが、間に合わなかった。

 アンジェラが吹っ飛ばされ、ぐったりと倒れて込んだ。

「アンジェラ!」

 激怒した魔物は目にも留まらぬ速さで動き、次々と強烈な蹴りで他の仲間を吹き飛ばす。そして、ついに俺だけが立っている状態になった。


「くそ!くそ!お前は!お前は!」

 剣でさらに突き刺す。奴の蹴りが来る。盾で防ぐ。しかし、数度の蹴りを受けた瞬間、盾がひん曲がって弾け飛んだ。もう全ての攻撃を剣で受けるしかない。

 剣で攻撃を弾き、奴を突き刺し続けた。弱っては来ているが、相変わらず強い。

 奴は紫色の煙を吐いた。毒だ。意識が朦朧とする。


 そして何度目か突いた時、剣が折れた。


 俺は奴の攻撃をまともに受け、弾き飛ばされた。意識が遠のく……。


 ——雀の声。

 目が覚めた。ベッドの上だった。体は何ともない。もしかして全部夢だったのか?

 深い眠りに落ちていたらしく、頭痛がする。何時間寝ていたのだろう。


 部屋を見渡す。荷物がある。宿屋の一室だ。そう言えば泊まっていたような気がする。

 服もある。鎧もある。いつも通りだ。


 ふと、あるものが目にはいった。これはアミュレット?いや、近づいてよく見てみると、それは部屋の鍵だった。


 体を起こし、窓の外を見る。青い空、初夏の緑。平和である。

 やはり、あれは夢だったのだろう。


 服を着ようと持ち上げると、あるものがカランと落ちた。銀のアミュレットだった。

「……」

 そう言えば剣が見当たらない。剣はどこだ?


 ドアが開いた。入ってきたのはアンジェラだった。

「あ、起きたの!良かった!」

 アンジェラは髪型が変わっていた。長い髪が短く切り揃えられている。


「髪……」

「あ、切ったのよ!下の方焼けちゃったし」

「……ちょっといいか?夢を見ていたようなんだが……」

 俺は夢の中身をアンジェラに話した。


「ちょっと待ってて!」

 彼女はそう言うと部屋の外へ走っていき、何かをを持って帰ってきた。


「これ……」

 そう言って彼女がまず取り出したのは俺の折れた剣だった。


「あれは夢じゃ無いわ。本当にあったこと」

 彼女が言う。

「しかし、あの状況で助かる訳が無い」

「あの後、王都の援軍が来たのよ」

「援軍?」

「ドラゴン小隊が来たの!」

「俺たちは助かったのか?」

「そうよ!」


 そして彼女は木箱を取り出して開けた。中から出てきたのは真新しい王家の紋章の入った剣だった。

 そして渡された。


「王様から感謝の印としてこれを貰ったの!」


 それは今まで使っていた剣とは比べようも無いほど見事な剣だった。


「アンジェラ!」

 そう言ってアンジェラに抱きついた。抱きつかれずにはいられなかった。

「ちょっと!何!何やってんの!もう!」

「君が生きてるのが嬉しいんだよ!」

「もう……バカね」


「そうだ、他の二人は?」

「王都のヒーラーが来たから、全員もう無事よ。あなただけ、毒で深い眠りに落ちていたの。どれぐらい寝ていたか分かる?十日よ」

「そんな寝てたのか!頭痛いはずだ!」


「体はもう何とも無い?」

 アンジェラが聞く。

「多分……」

 腕や足を回してみる。大丈夫そうだ。

「王様に呼ばれているの!一度会いたいって!体大丈夫なら行くわよ?」

「ああ、そうだな!」


 そして俺たちは王都へ旅立った。

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