日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。

真己

第1話

 日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。


 俺が伝えたいのはそれだけである。


 さて、俺は社会人だ。それも冴えない独身男だ。

 社会人になって数年、会社にももう慣れ、仕事と仕事と仕事と仕事と、それだけをこなす日々が続いていた。

 誰がやっても変わり覚えのないような仕事をして、キーボードを叩いて、営業回りをして、 満員電車に乗って。

 何一つ輝くことのない、そんな毎日を送っていた。

「昔はよかった」

 そんな言葉が口をついて出るような、夢ない大人になっていた。入社したころにあった情熱も、大学生の頃にあった若さも、もうとっくに失っている。ただ上司に言われたことを、言われたようにするだけ。それ以上でも、それ以下でもなく、ただ平凡にただ普通に求められる事をその通りに行う。

 いつも思っていた。この仕事をするのは別に自分じゃなくてもいいと。たまたま自分がやっていただけだと。好きで入ったわけでもない会社で、やりたいことなんて特になく、ただ給料もらうために働いていた。

 そして、そうしているうちに給料の使い方も忘れていた。日々の鬱憤を晴らすため、酒を飲んだこともあったが、その飲み方では楽しめるはずもなく。使い道を失った。給料が通帳に重なっていくだけだった。

 何も楽しくなかった。何の趣味もなかった。何もすることがなかった。金の使い道もなく、時間の使い方も分からず、ただベッドで 横になって休日を過ごしていた。怠慢をタイマンとも思えず、日々の仕事で疲れた体を怠けさせるにも似たような姿で、休ませるだけだった。


 そんな時に、昔の同級生と会った。田舎に帰った時にたまたま会った友人は、高校の時から何も変わっていなかった。

 出会い頭、俺の腕を掴んでこういった。

「今期の戦隊もの最高だったと」

 この同級生は昔からこういうオタクだった。体を揺さぶられながら、「あーそうだっただ」と思いながら、俺のことなど気にも留めず、流れるようなマシンガントークを決められた。正直どうでもよかった。揺さぶられるのが気持ち悪いのでやめてほしかった。だが、 俺のそんな顔にも友人は喋った。しゃべってしゃべってしゃべった。あまりもうざくなって、近くの居酒屋に入って、仕方なく話を聞いてやった。ニコニコと笑いながら、 話の続きを話す友人は、やっぱり俺と違って何も変わっていなかった。その妙な寂しさだけが俺の胸に残って、話にも集中できなかった。2時間ほど話して 友人は俺に言った。


「ということで、来期の戦隊物見てね、感想聞くから」

「はあ?!」


 戦隊物が放送されるのは、九時半。そんな時間、俺は寝ている。社会人になって、そんな時間に起きたことなんてない。


「ムリだろ!」

「無理じゃないよ? 面白いから、楽しみでワクワクして起きちゃうよ?」

「お前じゃあるまいし、」

「大丈夫ー!」

 そういって、友人は伝表を持ち立ち上がる。

「感想のお代は先にもらっとくから!」

 そのまま、ルンルンとレジに向かった。

 友人からしてみれば、貸しを作ったつもりなのだろう。


 ……その代金は、お前のオタク話を聞いてやった代金なんだけどな。


「モーニングコールはいる?」

「いらねえよ!」


 そうやって、俺たちは別れた。


 もう一回言う。

 日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。


 やらないと(友人が)めんどくさいことになるので、起きた。


 9時半までには時間があるので、ベッドから降りた。顔を洗った。髭を剃った。まだ9時半はこない。

 トーストを焼いた。平行作業で洗濯を始めた。

 あと五分でテレビが始まる。

 椅子に座った。バターを塗った。かじった。テレビが始まった。手元からパンが無くなった。テレビが終わった。電源を切った。


 今は10時だ。

 ……10時だ。今日が終わるまで、あと14時間もある。いつも、1時頃まで寝てる俺からしたら、驚きすぎる。やることがなさすぎる。


 スマホが鳴った。あの友人からだった。朝から元気なやつだ。

 仕方がない。出てやろう。話を聞いてやる。ついでに、戦隊物の過去作のおすすめを聞いてやろう。


 まだ、10時。残念なことに、時間はある。


 近くのレンタルビデオ屋の開店時間が思い出せないまま、スエットを脱ぎだして、着信ボタンを押す。


「おい、暇だから、おすすめのシリーズ教えろよ」



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日曜日の9時に起きるなんて、小学生以来だ。 真己 @green-eyed-monster

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