「11頁目 死は突然に……」

 ○月※日


 昨日は日記を書くのを忘れてしまった。


 今は、ミントスの北の森で経験値稼ぎに勤しんでいる。なんだかなんだ日も暮れて来て、森で野宿するはめになった。せっかく良い宿がミントスにあるというのに……。


 それより何より、昨日、衝撃的な事件が起きたので忘れないうちに書き記しておくね。


 題して「サソリの恐怖」


 この大陸には今まで見たことのないような魔物が現れるの。がいこつけんし、エビルハムスターとか。

 魔物って見た目とか名前で強さが判別できないところがあるので、油断ってできない。おしとやかそうに見えるミネアがモーニングスターなんてトゲ付き鉄球を振り回すくらいなんだから、魔物だってそうだ。

 可愛い顔して凶悪な魔法を使ってくる奴もいるし、魔物によって効果のある呪文や攻撃方法が違うし、相手の攻撃力や体力もわからないので、まずは出し惜しみせずに全力で攻撃して魔力もどんどん使って、この土地の魔物に慣れようとした。


 だから作戦は「ガンガンいこうぜ」

 町から離れすぎないで経験値を稼ぐ時にはよく使う手なの。魔力を使い果たしたり体力が減って来たら町に戻って宿屋で回復しちゃえばいいのだから。

 

 戦闘を繰り返して半日。周囲の魔物の特徴もなんとなく掴めて来た。体力に気を配って油断せずに戦っていれば負けることはない。


 そこでわたし達は少しだけ遠出をしてみたの。ミントスの北の森に。

 森に入れば魔物の出現率は高まるけど、力も付いてきたからこのくらいで丁度良いかなって思い始めた頃、森の中からがシャンガシャンという不気味な音が聞こえ、見たことのない魔物が現れた。


 銀色に輝く胴体、四本の足で地を這い、二本の前脚の剪刀ハサミと太くて鋭く尖った尾を持つ鉄のサソリ『メタルスコーピオン』だ。

 体が金属で出来ているのか、見た感じすごく硬そう。

 武器を持つ手に力を込めて、激戦を予想したんだけど……。


 戦闘態勢に一番最初に付いたのはトルネコさんだった。

 彼が先制攻撃を仕掛けようと「正義のそろばん」(※鈍器と計算機を合体させた正気の沙汰とは思えない悪趣味な武器)を握りしめて進み出たんだけど、なんと足を滑らせて転んだの。小石か木の根に足を取られたのね。トルネコさん、お腹が大きすぎて足元が見えないのかもしれない。

 あちゃーって思ったよ。先制攻撃を仕掛けようと躍り出てコケるんだもん。 でもね、次の瞬間、衝撃的なことが起こったの。

 転んだ拍子にトルネコさんの手からすっぽ抜けちゃった正義のそろばんが、くるくるくるーって宙を舞ったかと思えば、メタルスコーピオンの頭部にクリティカルな感じでガツンって突き刺さったの。「会心の一撃」ってやつ。


 激闘を予想していたのに、一撃で撃破。


 ホント驚いたよ。


「いやあ、よくやっちゃうんですよねぇ。わはは。お恥ずかしいところを……」なんてトルネコさんは照れた顔で頭なんか掻いてさ。


 良くやるって……なによそれ。真面目に戦ってる自分が馬鹿らしくなっちゃった。


 トルネコさんって凄腕の武器商人だって聞いていたから、神経質で理屈っぽい人かなって勝手に思ってたんだけど、とってもひょうきんで気さくなおじさんなんだよね。


 いとも簡単にメタルスコーピオンを倒しちゃったんで、この金属サソリがどんな攻撃をしてくるのかは分からず終いだったんだけど、この戦いの勝利と同時に、わたしとミネアが二人してラリホーマを覚えたの。敵を眠りに誘う補助魔法。

 

「同時に覚えるとはお二人は仲がいいですねー」


 なんて、トルネコさんに言われてなんとなく嬉しかった。そんな話をニコニコと和やかに話している最中だった。


 こちらを向いて微笑んでいたトルネコさんの土手っ腹から鉄の円錐が生えてきた。


「え……っ!?」


 驚いたのはトルネコさん本人だ。自分のお腹から突然生えてきた尖った金属。なにが起こったか分からないと言った顔のトルネコさんの口から真っ赤な血が吐き出された。


 金属の円錐が背後に引っこ抜かれると、トルネコさんは膝から崩れ、うつ伏せに倒れた。そのまま動かなくなるトルネコさん。

 血だまりを作り倒れたトルネコさんの背後に立っていたのは、メタルスコーピオンだった。もう一匹いたのだ。森から現れたメタルスコーピオンが突然襲いかかってきたのだ。


 トルネコさんの背後から近寄った金属のサソリはその鋭利な尾をトルネコさんの背中に突き立てたのだ。痛恨の一撃だ。

 さっきまでにこやかに喋っていたトルネコさんが即死。



 和やかだったパーティに衝撃が走った。

 ……ま、トルネコさんを除くメンバーですぐに退治したけど。


 その後、すぐにミントスの街に戻り、教会でトルネコさんを生き返らせてもらった。生き返ってよかったよかった。もし生き返らなかったらどうしようかと思ったよ。


 生き返ったトルネコさん、真っ青な顔になってた。そりゃそうだよね。死ぬなんて経験はなかなかしないもの。

 いろいろ説明して、勇者の仲間は天の神様によって生き返らせてもらえるっぽいんですって伝えたけど、トルネコさんの顔は引きつってたなぁ。いくら生き返らせてもらえるったって死ぬのってめちゃくちゃ怖いもんね。お腹にあんな鉄の尻尾が突き刺さったら死ぬほど痛いし(いや、実際死んじゃったけど……って笑えないか)


「背後にも気をつけます……」ってトルネコさん落ち込んでた。



 そんなわけで、その日は青ざめたトルネコさんを慰めるために、お酒をご馳走してミントスに一泊した。一晩経ったらトルネコさんもケロっとしてたからよかったけど。

 

 で、再び経験値稼ぎの魔物狩りで、森の中に来てるの。

 今夜はここで野宿かー。

 あったかい布団で寝たいよー。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る